□読み切り
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呼吸をすることはごく普通なこと。普通なことってどういうことなのだろうか。酸素を吸って二酸化炭素を吐く。そんなことをしている人間が、屋上にいた。その人間は手に煙草を持って優雅に吐いている。その煙は酸素や二酸化炭素に混じって消えてゆく。学校で煙草…屋上で吸う。つまりこれはサボりとでも言えよう。何度も、何度も、吸っては吐いての繰り返し。

「…――つまんねぇ…」

「だよねぇ〜」

横から聞こえる声。その声は女の声だった。煙草を吸っているせいか、少し距離を置いている。屋上の柵に、手を掛けてため息をついている。軽く、風邪が吹き彼女の髪をなびかせる。

「お前…」

「隼人、よく屋上に居るよね〜私も同じだけどさ」

「授業に戻れよ。俺より頭がいい奴がここに居たって…」

「だから何?分かっている癖にそんなこと言うわけ?どこの口が言ってんの」

゙つまらないから隼人のとこに来ているんだよ゙と彼女は言った、
風と共に煙草の煙も髪と一緒に不規則になびく。その煙が薄くなって消えてゆく。
空には雲が浮かんでいる。その雲はまるで…

「隼人みたいな雲が沢山浮かんでいるね」

「何意味わかんねぇ事言ってやがる。俺は雲じゃねぇ」

「えー、だって煙草吸っていてさ、煙を吐いているなんて雲みたいでしょ?」

彼女は煙草を吸っている真似をして見せた。


「やっぱ、隼人雲だよー、煙は消えてしまうし、雲もいずれ消えて無くなる」

そう言いながら彼女は目を伏せた。世界の最後を今さっき見たばかりの絶望した目だった。それをみて彼は…

「消えなきゃいいんだろうが」

「え?」

「雲だって煙だってよ、生まれたら消えちまう運命だけど、また生み出せるじゃねぇか…」


゙毎日のようにな゙


暫く二人の間には沈黙があった。あさっての方向をみていて無言のままただ柵に手を掛けていた。


「戻らねぇのかよ」

「だからつまらないって言ってるでしょ?」

「ちげぇーよ…」

「え?なな、何?」
   .. 
「俺のとこにだよ」


ただ彼女を見つめていた。この時ばかりは煙草は吸っていなかった。でも、指には挟まっていた。そこからは小さくもゆらゆらと煙が出ていた。


「隼人のとこ?」

半分嬉しそうに半分悲しそうに言った。


「だって、消えちゃうでしょ?雲や煙みたいに…高校卒業したらイタリアに行くんでしょ?そしたら…私…」

「ばーか、消えねぇって言っただろうが。雲や煙が消えても俺は消えねぇよ。俺はそんな安っぽい人間じゃねぇ」

「証明してよ」

「……」

少し離れて立っている彼女の腕を無理に引っ張り自分の胸の中に閉じ込めた。彼女は身動きが出来ないまま、ただ驚いていた。


「俺が消えるなんて馬鹿はしねぇ」

「だって…」

「一緒にイタリアに来い、そしたら何時でも証明してやる」


「うん―‥」


煙かもしれない。だったらお前は雲だ。だけど消えるなんてことは絶対ない異例の物体。お前が傍にいるなら俺も傍にいる。


煙のように消えないように受け止めよう






(雲なんて気まぐれ)
(でも俺は気まぐれじゃない)

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