□読み切り
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見事に頭から真っ赤な血を流して微動だに過ぎない私の想い人。担架に運ばれて来た時にはすでに息はしていなくて…彼の守護者は泣きそうな顔をしていたが、涙を流すまいと必死に堪えていた。でも、私は泣き顔することはおろか、そういう感情を作ることは出来ないでいた。ただ、ただ、驚いているだけだった。




人が一人死んで帰ってきた




他人事のようにそう思っていた。私が自ら一生をかけて愛し抜くと誓った人がたった今亡くなったというのに泣けないだなんて可笑しいだろう。回りの人達は泣いていたり叫んでいたり、たまには悪態をついていたり…誰もが、彼のことを尊敬し愛していた。


ボンゴレ史上典型的な穏健派と謳われたドン・ボンゴレデーチモ。私はボンゴレを支えるしがない秘書兼ボディガード。差がありすぎる関係だった。なのに彼を好きなって愛してしまった。私があの時、彼の言うことを聞かず強引にでも着いていけばよかったのに…





「ここで待っているんだ。絶対に出ちゃダメだ」



最初こそは否定した私だった。でも、彼があまりにも真剣な顔で言うものだからだんだん否定出来なくなってしまった。


「ねぇ、綱吉。何処にいくつもりなの?」


「・・・」


「なんで黙っているの?教えてくれたっていいでしょ?」


「いい?ここを…「綱吉!」…」


いつもの綱吉じゃない。こんな綱吉をみたのは一度もない。何かを恐れている顔。それは幾度なく見てきたつもりだったが、その時の綱吉は違っていた。恐れているより寂しい顔をしていた。子供のように…


「君を…失いたくないんだ…」


子供のようだった。本当に泣きそうな顔して私にそう言った。私はその時は何も言えずに黙っていた。何故なら彼が…




私を強く抱きしめたからだ




その後、私を抱きながら震えていた。私はただ驚いた。もう何年も彼の涙を的もに見ていなかったからだった。私は震えるその背中を両手で優しく包んで子供をあやすようにポンッと叩いた。


でも、この時気付けばよかった。涙を流した理由を―…


「分かったから。泣かないで?」


「ありがと…」


「うん」


もっと深く考えていればよかった。言葉の意味を彼の気持ちを。そしてこれから起こることを。


「じゃ、俺行くね。絶対帰ってくるから」


「当たり前でしょ?」


クツクツと喉を鳴らしながら私はそう言った。彼の顔は笑顔だった。しかしその笑顔は最後の笑顔だった。彼の最後の笑顔を見たのは私だった。


彼は扉に手をかけたとき振り向きながら口パクでこう言っていた。今になって気付く。



あ い し て い る




絶対に帰ってくると言った彼。結果、生きて帰ってきてはいなかったものの、ちゃんと帰ってきた。私の元に。その代償に死というレッテルを張って…


誰もいなくなった部屋。そこに彼、綱吉の体が置かれていた。私は未だに涙を流せずにいた。


「お帰りなさい。寂しかったよ?綱吉がいなくなって…」


ね?私は此処にいるよ?だから…その目を開けて?私を見て?




もう一度愛してると言って




私は冷たくなった彼の頬を撫でて言った。分かっているけど…死を受け入れられない。脈がないのを知っていながら確認すると…


断末魔のように泣き叫んだ。


その声は夜中響いた。そして大空に消えていった…








(死んだだなんて許せない)
(帰ってきても貴方は)
(冷たいまま眠る)



※ お題を借りて書きました
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