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□読み切り
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巡る巡る想い。
それは時を知らずにくる。
数え切れない日々を過ごし、また信じられないくらい人を愛し、どれほど月日が流れようとも恐れなど知ろうとしなかった。
「それを手放すなんて愚かでしかない」
ざわざわと吹き付ける風は何かを伝えようとしているようで少し不気味に思える。森の奥深くにある白く小さな家は静かに佇んでいた。
「こうして百合の花を手向けるのも流石に飽きてきたな。別の花を持ってくるか。なぁ、ツナ何がいい?」
風は止まない。ただ彼女の髪をなぜるだけだ。
愛するとこを途中で諦めた彼女は償いとして白く小さな家に花を毎日手向けている。最近までは百合の花だったがその前は桔梗の花だった。得に意味なんてない。彼に見合った花を持ってきている。
「ツナは何色がいいんだ?なぁ、黙ってちゃ分からないよ。私はな、ツナを諦めたんだ。だから償いとして毎日花をあげているんだぞ?」
――分かっているのか?
木々の隙間から漏れる光は彼女の顔を照らした。時折聞こえる小鳥のさえずりは心地よいものとなっていた。
綺麗に並べられている花。それは全て彼女がそろえた花だ。右から左へと等間隔できちんと並べてある。これも意味などない。ただ綺麗に並べたかっただけだ。
「もうすぐ六ヶ月になるんだぞ、ツナ。お前が残した宝はここにいる」
愛おしくお腹を撫でる姿は母親だった。新しく生まれた生命が今ここにあるのだ。小さくとも一生懸命に大きくなろうと、そして早く外の世界を見ようと頑張っている。
温かい鼓動が優しく聞こえる森。柔らかな風が体を包み込む。今まであったことは全て忘れ、これから築き上げていくことを考えていく。
「お前はずるいぞ。勝手に見守られて死んでいくなんて。寂しい想いをしないように宝までおいていって。そんなに私はダメな人間か?ツナ、会いたいよ…!毎日花を手向けても何もかわらないないんだよ!」
「俺が死んだらさ、毎日花を供えて欲しいな」
「何故?」
「そのほうが愛されている気がするから」
花が俺を
作ってくれる
はずだから
どんなに苦しくても
どんなに悔しくても
どんなに悲しくても
どんなに寂しくても
彼は二度と帰ってこない。帰ってくるようなことがあればこの世の理に反することになってしまう。
しかし、理を反してでも死んだ者と会いたいと思ってしまうのはしかたないことだと言える。それは愛しているから。
墓を知られない為にカモフラージュとして置かれた棺桶。そこにも花があった。敵にばれないようにするにはカモフラージュらしく何かやらねばならない。今日は白いバラだった。
「ここは一体…?」
パサッ――
「ツナ…?」
白いバラを手に抱え一つずつ落としている女性の姿があった。そして、こう言った。
「会いたかった」
涙の数だけ恋をする
(恋をする相手は)
(いつだって君だった)