□読み切り
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青空の下、グランドを走る部活があった。汗をかき、それでも練習に取り組む姿は気持ちがよくなる。ボールを投げる音、バットを振る音。時折なるカーンという威勢のいいボールを跳ね返す音。ボールは吸い込まれるようにして守備をしている人のグローブに収まる。着ているユニフォームは既に黒くなっている。それでも皆の動きは止まらない。寧ろ楽しそうにしている。


「マネージャー、タオルくれ」


「あ、はい。どうぞ」


「ドリンクお願いね〜」


「はい!今配ります!」


部員に頼まれ、先輩マネージャーに頼まれ、何かと忙しくしている新人マネージャー。まだ部に入って二ヶ月ほどだ。やっとのことで部に慣れてきたところ。今年の野球部はかなり燃えていた。目標は甲子園。毎日の練習はかかせない。それに比例してマネージャーの仕事も日々大変になっている。


「よーし、一旦休憩だ」


監督の声で一斉に自分の荷物の元に戻っていく部員たち。あー、とか、うー、とか言いながら休憩している。マネージャーはドリンクを一人ずつ渡していく。休憩している部員の中で一際目立つ部員が一人いた。


「うっし、さぁ、もう一発いくか!」


「武〜どーしたらそんなに体力がつくわけ?」


「ん?牛乳を飲みまくれ。そしたら体力つく」


「はぁ?お前からかってんのかよ」


「ははっ!冗談だよ、じょーだん」


タオルを肩にかけ、爽やかに笑うその姿は皆の憧れだった。そのせいか、女の子にかなりモテる。


「山本先輩。ドリンクです」


「お、サンキュー!いつもわりぃーな」


「あ、いえ。マネージャーですし、これくらいは…」


「あんま、無理すんなよ?マネージャーでも俺らの仲間なんだからよ」


優しい言葉をかけられ一気に体温が上がる。恥ずかしいのか嬉しいのかその間に立たされているようで羞恥心が芽生える。そして顔が赤くなっていく。


「ははっ、赤くなるなって!ま、そーいうとこが可愛いんだけど」


「せ、先輩!何言っているんですか!」


「冗談じゃないぜ?部活終わったら話しがあっから」


そう言って山本は練習に戻って言った。走って戻る彼をただ見つめることしか出来なかった。


そして部活が終了して帰り道。山本と一緒に帰っていた。部活でしか見ない彼と二人っきりで帰るのは緊張して直視できない。何か話題をと口を開こうとするが緊張のほうが遥かに勝っていて勇気が出てこない。


「「あの…」」


「あ、いや…」


「せ、先輩からどうぞ」


「姫もなにか…」


「い、いいです!せ、先輩から」


「じゃあ、単刀直入に言うけど、姫って好きな人いるのか?」


急に言われて固まる。好きな人はいないと言ったら嘘になる…だけど好きと自覚できていない


「い、いません」


「チャンスだな」


「へ?チャンス?」


山本は手を引っ張って自分に引き寄せた。急だったため、勢いよく山本の胸にダイブする形になる。


「せ、せんぱ…い」


「俺は姫が好きだ。だからずっとこうしていたい」


高鳴る鼓動。そしてやっと気付いた。これは恋なんだと。こんなことをされることが嬉しくて、でも、恥ずかしくて。


「私…もしかしたら先輩が好…き」


「大好きになるようにしてやるよ」


「はい」


夕焼け、二つの長い陰は道に真っ直ぐに延びている。その陰はお互いを求めるかのように重なり合った。


ここで今、一つの愛が生まれた―







(離さないからな)
(離れたくありませんから)
(好きだよ、姫)
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