ほのかに薫ものども
□2 光の影
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《薫side》
広くて光りの届かない空間。
真っ暗で何も見えない。どこにいるかも分からない。私はただ、光りを求めていた。必死になってもがいていた。目的なんてない。とにかく必死だった。早くこの空間から脱出したいばかりに。
「ここは何処?何故、私はここにいるの?」
嫌だ…置いて行かないで!私を一人にさせないで!こんなとこに…
「誰かいるの?私は一人なの?」
喋っていないと気が狂いそうな感じがして、ひたすら喋った。きっと誰かがいるに違いないと。心から願って。
――ザァー…
水の音?何で水の音が……
「!!」
いつの間にか水が腰の近くまであった。水圧のせいか中々体が動かない。
「やだぁ……怖い、助けて!」
この時ばかりはここに人なんていないと思った。そうだ、私を助けてくれる人って今まで生きてきた中でいた?居ないよ、そんな人。
「……!……?」
誰?誰なの?いるなら早く助けてよ!
「薫!薫!何処なの?もう、帰るわよ!」
この声は……まさか……
「母…さん?」
母さんがここに?私を探しに来た?何で、何で今更っ!
その時、腰まであった水は無くなっていた。代わりにホログラムのようなものが目の前に現れた。
「もう!薫ったら、置いていくわよ!」
「わぁーん!お母さん待ってぇ!」
「ほら、みーつけた!」
「お母さんの意地悪ぅ」
「薫が出て来ないからいけないんでしょ?全く、かくれんぼが好きなんだから」
「だって、楽しいんだもん!」
これって私の幼いころの記憶?私と母さんがまだ幸せだったころの…
こんな記憶、ずっと忘れていた。幸せだったあの頃の私は本当に笑顔でいられた。あの日がくるまではずっと…
場面が変わった。
もう、幸せな頃の私ではなかった。何故なら幼い私の体が……
ズタズタだったからだ…
記憶にない。こんな酷いことをしたのは一体だれ?
「一人にしないでぇ…ヒック、置いて行かないでよぉ…ヒック…うぇぇ」
私は泣いていた。体がズタズタになっていても、尚、泣いていた。多分、心も体も全部枯れてしまっているだろう。自分から光を奪われてしまった。
失明でもしたかのように、また暗闇へと戻されてしまった。あの映像をみることはなかった。でも、内心安心していた。あんな映像を見るだけで余計な感情が芽生えてくる。そんなのはごめんだ。
一人…一人…
私は何時だって一人で過ごしてきた。何処かへ行く時だって、そういつも…
「待って…今、私は一人なの?」
なんか、温かさを感じる。気分が落ち着く。こんなの、一人だと感じることは出来ない。つまり、今は一人じゃないってことなのだろうか…
――パッ
この空間に奥とかあるかどうかは分からないが奥から光が見えてきた。その光は段々濃くなってきて、私がいる場所まで届いた。私は無意識にその光の先を求めて一目散に走り始めた。
その先にある世界を自らの目で見る為に…
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