擬人化部屋

□お馬様の初恋
1ページ/2ページ

オレは、かの有名な聖徳太子の愛馬だ。
元いたところからの献上品として、ここへ来た。
ハッキリ言って、不愉快だ。

何を隠そう、いや隠してないが、あのオッサンは物凄く臭い。
オレに載る時のあの、目に痛い青い服も、素材のせいか非情に不快だ。
その上乗馬が下手で、オレの世話も人任せ。
そんな奴に快く乗らせてやるほど、オレは心が広くない。

だが、しかし、
アイツにも一つだけ、感謝出来る事がある。


「黒駒…どうして聖徳太子にあんな酷い事をするんだよ…?」


それは、オレの世話役を、
コイツにしてくれたと、いう事だ。





≪お馬様の初恋≫





舎人の、調子丸というこの男。
普段から体調の悪そうな顔をしていて、事ある毎に吐血する、目の放せない男。
最初はただ単に、危なっかしいから放っておけないんだと思っていた。
だが、姿が見える度目で追って、姿が見えないとそわそわする自分に気付いて、ふと、考えた。

なんでこんなに気になるのか、と。

人間なんて、勝手に生きているんだから放っておけばいい。
それに、仮にもアイツは男なんだから、心配する必要は無い。
それなのに、気になって仕方ないのは、何故だろうか。
もしかしてこれが…と、考えてみたものの、ありえないと首を振る。

しかし、決定的な事が起こった。
目の前で転んだ調子丸に襲い掛かる、驚いて暴れた馬の、蹄。
それを見た瞬間、オレは、
何も考えずに飛び出して、なりふり構わず調子丸を護っていた。
(その馬は悲鳴を上げて逃げ出した)


「…く、黒駒…?」


驚いたのか怖かったのか、目を見開き涙目で見上げてくる調子丸。
胸が高鳴った。

あれ、コイツ超可愛くね?

―――それが始まり。


「黒駒は優しいのに…なんで太子には、」


オレが優しいのは、調子丸に対してだけだ。
―――どうやらオレは、この人間に恋とやらをしてしまっているらしい。
同じ馬でもない、しかも男に惚れるとは、
オレも大概、正気じゃないってことだろうな。
狂ってる。
自覚済みだ。
だが、コイツが可愛すぎるんだから、仕方が無いだろう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ