擬人化部屋
□二人ぼっちの楽園を望む
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帰り支度の済んだうさみちゃんの肩にさり気なく手を回して、教室を出て行こうとした。
すれ違った瞬間に、ニャン美ちゃんが低い声で呟く。
「調子乗ってんじゃないわよ」
ストーカーの分際で。
調子に乗らないでよ。
アンタなんかより、私の方がうさみちゃんを愛してるのよ。
ニャン美ちゃんの心の中を渦巻く毒が、僕に向けて吐き出される。
プラス、盛大な舌打ち。
僕は一瞬だけ振り返り、嗤う。
「ねぇ、負け犬の遠吠えって言葉知ってる?」
うさみちゃんが不審に思う前に前を向いたけれど、後ろでニャン美ちゃんがどんな表情をしているかなんて、手に取るように分かる。
想像してみたら物凄くて、思わず噴出した。
うさみちゃんが、呆れたように溜息をつく。
「女の子に酷いこと言わないの」
「あれ、バレてたんだ」
「これだけ近かったら聞こえて当然でしょ。隠すつもりも無いくせによく言うわ」
心底呆れたような声音。
可笑しくて、僕は笑いながら問い掛けた。
「怒ってる?」
「呆れてるのよ」
「最高だね、愛してるようさみちゃん」
「知ってるわよ」
呆れてるけど怒ってない。
それは、僕がニャン美ちゃんを無下に扱っても、放置するということだ。
つまりは、どうでもいいんだ。
うさみちゃんはニャン美ちゃんをどうでもいいと、言っているんだ。
こんなに嬉しいことはない。
こんなに満たされることはない。
だって、僕以外はどうだっていいってことでしょう?
「ねえ、うさみちゃんの理想の世界ってどんなの?」
「…何よ、急に」
「いいから、教えてよ」
「…そうね、」
その時のうさみちゃんは、最上の笑顔を浮かべていた。
「私と貴方以外、何もない世界かしら」
fin.