長編

□地上の灯 天上の舟
1ページ/1ページ






『ごめんくださーい、銀時くーんいますかー?』
万事屋の玄関先で叫ぶ聞き慣れた声に家の主銀時は気怠さ全開で応対に出た

「ヅラ…指名手配犯が何しに来た。」

「辰馬からこれを預かってな。」

蓋が閉まらない程ごちゃごちゃと中身が詰まった段ボールを手渡される


「辰馬から?
つか、えっ?クリスマスじゃないよね?
季節先取りにも程があるだろ。」

段ボールには色とりどりの包みや大きさの違う小さな箱が沢山詰まっている


「先にお前の家を訪ねたが留守にしていたんだろう
それで俺が預かった

…何か思うところがある様子だったな。」

「へぇ…」

「…」

「…」

「処で、お前はいつまで俺を玄関先に立たせているのだ
立ち話もなんだ…邪魔するぞ。」

銀時の立ちはだかっていた玄関の隙間をするりと抜け、慣れた様に銀時宅に上がり込む


「あれっ?用は終わったんじゃないんですかぁ?
指名手配犯は大人しくこっそり帰ればいいんじゃないんですかぁ?」

応接間へ向かう桂の背中に向かって声を描ける

「って、チッ…聞いてねぇし。」

面倒臭そうに頭を掻きながら呟き玄関を閉めた


一足先に応接間の長椅子に腰掛けた桂は目を閉じ腕組みをして銀時が部屋に入るのを待った

銀時が桂の向かい側に座り段ボールの中をゴソゴソと漁っていると徐に桂が口を開いた


「銀時、お前も近頃辰馬に会ったそうではないか。」
探る手は綺麗に包装された包みを次々に解いていく

「ああ…まあな。」




「…で、それがどうかしたのか?」

なかなか二の句を告がない桂を不審に思いちらっと桂に目を遣る

閉じられていた双瞼がゆっくりと開き銀時の両の眼を見据える


「その時何か様子がおかしいと感じなかったか?」

「あー…」
熱海の風呂場で言っていた仲間が危険な目に遭うのが判っていて…ってあれか

「心当たりがあるのだな…」

「まあな。」


先日偶然にも『保養惑星 熱海』で銀時と辰馬は再会している
艦を脱け出し温泉で独り何か考えていた様子だった
その時には地球にも寄れず忙しいと言っていた筈だ


忙しいと言っていたこの時期に自分達にわざわざ用を見付けて来るのには、それ相当の理由があるのだろう

『俺達に共通のある何かか?』


銀時には思い当たる共通の人物の姿が浮かんだ

子供の頃からよく知る…今度会ったら全力で斬ると言った相手だった

万事屋を訪ねる前に桂も同じ考えを導き出していた


多分辰馬は俺達にその事で何か言いたかったんじゃないだろうか

だが敢えて何も言わなかった

離れているからと云って俺達や高杉の事もそれなりに…いや俺達が思っている以上に気に掛けているのだろう

春雨絡みで俺達の間に何があったのかもあいつは多分知っている
だから何も言わなかったのだと確信する


「馬鹿のくせに気ィ回しやがって。」

「で、これからどうする気だ銀時。」

「さあな。」
あいつは言葉を飲み込んだんだ
俺は暫く見ているしかない
「ま…そうだな…」

「ああ…」

何があったのか…

何が起ころうとしているのか

今は只見守る事しか出来ない
いや…地球からでは見守る事も出来ずにいる


「なあ銀時…」

思いを巡らす銀時に桂は不意をついて問い掛けた

「何だよ…」

何か術でもあるのだろうかと桂を見た


「この菓子一つ貰うぞ。」
既にいくつかの箱を勝手に開けている

「はあっ!?」

この空気でその言葉出ますか!

「それにしても全部甘そうな菓子ではないか
銀時の好みそうな物ばかりだな。」


…っ、あのもじゃもじゃいらねー所にばっかり気ィ回しやがる


照れ隠しの様に口に入れたのはチョコレートの様だった


口の中で淡く溶け消える甘さが波立った心を少しだけ凪いだ物に変えていった

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ