長編

□巡る思い《前編》
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立ち枯れた笹野原はそこだけ時間が切り取られた様に不気味な静寂に包まれていた


風も吹いていないのにサワサワと葉擦れの音が俺に『戻って来い』と手招きしている




な、何かヤバイ雰囲気なんですけどーっ!!






「うーん…」

「なーんか、忘れてる様な気もするんだけど…」

「あっれ、思い出せねーな」

「なぁ、何か知らねぇか?高杉。」


「うっせーぞ、銀時!
さっきからてめーのうぜー独り言にこっちはイライラしてんだよ!」

「悪い悪い、いや何かね誰かと何か約束した気がすんだよなあ、
いつ誰と何を約束したかお前知ってる?」

「知らねーよ。
てか、知るわけねーだろ。」

「なぁヅラ、おめーも何か知らねーか?」

「ヅラじゃない桂だ、それにお前のプライベートまで管理する義務は無い。」


「あ゙ーもう黙れ、それが出来ねーんなら出てけ。」

今にもぶちキレそうな晋介の様子を見て坂本が銀時の腕を抱え部屋を出るよう促しに入る

「はいはい、晋介に抜刀される前に退散じゃ金時。」

「銀時だって何回言えばテメーは俺の名前覚えんだよ、
バカなの?
なあバカだろ。」


「バカって2回も言わなくてもえいじゃろ。」

バンッ!と桂が机に掌を突き一喝する
「うるさいぞお前達、会議がさっぱり進まないではないか、
二人ともこの部屋を出て行け。」


結局隊室を放り出され行く所も無く二人縁側で日向ぼっことなった

「ったく、あの二人は怒りん坊さんだねぇ
もう少しリラックスした方がいいんじゃねーの。」


「のう、ぎ…金時あの陰に隠れてるのはおんしの知り合いか?」

「テメー…今銀時言いかけて金時っつったろ?
わざとだったんだな
なあ斬るぞ要らねーそのもじゃもじゃ頭斬ってやるぞ。」


「まあまあ、それよりあのサラサラロングストレートの娘はおんしの知り合いか?」

「はあ?」
どれどれと納屋の方に目を凝らす

納屋の周辺には誰も居ない
「誰もいねーじゃねーか。」

「おっかしいのう、確かに見たんじゃが…」

いきなり納屋から斧がこちら目掛けて飛んできた

「避けろ、銀時!!」

バキッ!!

「ぅおおおっ!! あっぶね」

銀時の座っていた縁に斧が突き刺さる

「誰じゃ!!」


坂本が声を掛けても返事はある筈もなく

生唾をゴクリと飲んで辰馬と目を合わせ小さく頷く



息を詰めて納屋の方へ近付く
納屋には裏口は無く、入口は縁側に面した1ヵ所のみ
心張り棒を入口の引き戸に掛け
辰馬は右手から銀時は左手から裏の方へ慎重に回り込む
誰も居ない…

念の為辰馬に肩車してもらい屋根の上も確認する

「誰も居ねー…。」

残るは納屋の中のみ

いくら縁側でぼーっとして居たとはいえ、
人の動きがあったら何か気付いたろうが
入口付近には誰も居なかった
気配すら感じなかった事が不気味だ

そして心張り棒を外し中を改める

ガランとして何も無く隠れる場所も無い
天井の梁も何も平屋作りで隠れ様が無い
床は無く即地面になっており、掘り返された形跡も無い


「はっ…どういう事だ一体。」

天人の仕業かそれとも俺達に恨みのある人間か


「中に農具の一つも無かったのう
金時、さっきのは何じゃったんだろう
それにあのおなごも…」

「金時?」

「…。」
返事が無い

「おい、どうした…金時?」

「んっ、あっ…ああ、何でもない、そろそろ晩飯の時間だろ中に戻るか。」


気のせいだろうか…?
銀時の様子が…
考え過ぎか?

「おお、そうじゃな。
飯じゃ飯じゃ。」


異変が起きたのはその日の真夜中


辰馬が胸にかかる重苦しさに目覚めた

目の前にあったのは自分の上に跨がり
左手で寝巻きの袷を胸元でぎゅっと握り
瞳いっぱいに涙を溜め
何かを言いたげに薄く口を開き
切な気に自分を見下ろす
ゾクゾクする様な何とも色っぽい表情をした銀時であった


右手がゆっくりと辰馬の頬に触れる


「…馬さん。」

銀時の顔が近付く

自分の顔に銀時の涙が降り落ちてくる

瞳の奥がゆらゆらと揺らめいていて目が離せない

「会いたかった…
お願いもう、離さないで…」

銀時の唇が辰馬の唇にゆっくりと降りてきた

サラッと長い黒髪が頬にかかる
銀時の顔に昼間のおなごの顔がぼやけてだぶった




つづく


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