長編

□巡る思い《後編》
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頬に触れる震える指先から痛みが伝わってくる

胸を締め上げる様な甘い痛み…

この痛みは


愛しさ…か?





銀時の吐息がかかる程唇が自分のそれに近付く


『お、おい、待て!』



声を出した筈が声にならない


体が動かない


心臓が早鐘を打つ


迫る銀時から目が離せない


熱い吐息が口内に侵入する





ゴソッ…

「うーん…寝る前にファ○タグレープを飲み過ぎた様だ…


やはりフ○ンタはグレープに限るな

んっ?
…だ、誰だ?
寝所におなごを手引きしたのは。」



ヅラの声…?


ヅラが起きて来たのか?


ドサッ


糸が切れた様に銀時が倒れ込んできた


「なんだ、おなごでは無く銀時ではないか、
全く寝惚けおって…
って俺もか…銀時と女を見間違えるなんてな…

あっ!け、決して欲求不満と言う訳ではないぞ!

そもそも辰馬も辰馬だ、これが敵であったら寝首をかかれるところであったぞ
全く武士と言うものは…」

「ヅラ、おんし厠へ行くのではなかったかえ?」

「おっ!そうであった、危うく粗相をするところであった。
あ…ヅラじゃない桂だ。

いつまでそうして居る、銀時お前も自分の床に戻れ。」

ヅラが銀時の体を揺すっているが、目が覚める様子はない

「いい、わしが…」

未だ自分の胸の上で眠っている銀時

完全に熟睡している

さっきは銀時が髪の長いおなごに…
ヅラにもそう見えていた


寝ている銀時を自分の床に寝かせ、辰馬は空いている銀時の床に潜り込んだ



これは誰の夢?


若い男女が楽しげに釣りをしたり
只寄り添って夕陽を眺めていた

温かで幸せな一時

愛し愛され

穏やかな愛の日々…


耳元で誰かが囁く


『お願い離さないで…
ずっとお側に…』


その夜が明けた後も銀時の様子は普段と違っていた


普段から覇気の感じられない魚の様な目が
心此処にあらずの様相を呈している

何処を見ているのか焦点の定まらない様な
それでいてどこか儚げな

ただ自分を見ている時だけは熱っぽい表情をする

まるで恋する乙女ではないか

一体銀時に何が起こったのだろう


この駐屯地に来てからだ


見兼ねた桂が問う
「銀時、お前熱でもあるのか?」

「あ…いや…」

「ではしゃきっとせぬか、他の者にも示しがつかん。」

「まあまあ、高杉が向こうの隊と合流して戻って来る迄まだ時間はあるき
先の戦の疲れがまだ残っちゅうのじゃろ
今日はわしと銀時に暇をくれんか?」

「何故お前にまで…」

言い終わる前に桂が見たのは辰馬の袖をぎゅっと握り寄り添う銀時の姿だった

「…っ 仕方ない。」

「すまんのう、ヅラ
夕方までには戻るき。」

「あ、ああ…。」


あれは一体誰だ?
昔から知っているあの男では無い
辰馬は何か知っているのか?

一先ずは辰馬に任せるか…


「さあてヅラに暇を貰った事だし、釣りにでも行かんか銀時。」

名前を呼び銀時を見ると花が綻ぶ様な笑みで
「はい。」と答えた

面を食らうとはこの事を言うのだろうな
この男に何が起こっているのかは解らないが
今は様子を見るしかない



駐屯地裏の川を上り上流の沢へ出た

大きな岩に腰掛け太公望の様に針も付けずに糸を垂らす

「のう金時…。」
(やはり金時と呼んでも怒らんのじゃな)



「あっ…そう言えば。」

袖から擬似針を取り出す
あの駐屯地に着いたばかりの時に拾った物だ



「おんしよ…わしは銀時が銀時らしい所が気に入ってる
だから…このままではつまらん。
何が目的なんじゃ?」

垂らしていた釣糸に針を着けようとした瞬間

「数馬さん…」

銀時の両手が針を着け様とした辰馬の両手を優しく包んだ

そっと針を奪い大事そうに手に包むとぽろぽろと涙を流した

「おんしは一体何者じゃ?」
 
 
 
 

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