長編

□夜明け前
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刻は丑をまわり世界は闇と静寂に包まれる


何もかもを深い眠りに引き込もうといざなう時間



が、ここでは死と隣り合わせの緊張感が張り詰める


その緊張感を打ち破る様に一人の隊士が銀時の元へ慌てて駆け込んで来た


「坂田さん大変です!!」


顔面は既に蒼白であった



「倉田の姿がありません、坂田さんに言われた通り奴から目を離さない様にしてたんですが
作戦準備で少し目を離した隙に…」


もう一刻も待つ間も無く天人の艦に奇襲をかける手筈になっていたのだ


しまった…



この先にある天人の艦が倉田の兄を殺した奴が乗っていたのと同じ物だと聞いてから倉田の様子がおかしくなった
あれ程一人で先走るなと言ったのに…


「俺ちょっと行って連れ戻して来るわ。」


「えっ!? 坂田さん今から行くんですか?」

「ほっとける訳ねえだろ。」

手早く支度をしながら他の隊員達に指示を出す

「辰馬の班が後から来る、訳話して合流しろ
それと、高杉とヅラの所にも伝令頼む
天人達にあいつが見付かったら近くに俺達が居るのがバレる。
待ち伏せされるか、一気に攻め込まれるか…とにかく急げ。」

「はいっ。」
了解し速やかに任務に当たる


陣営から白い衣を纏った銀時が駆け出す






あいつ…先の天人との戦で兄貴を殺されてから周りが見えなくなってやがる


注意して見ていた筈だったのに
くそっ俺が着くまで死ぬんじゃねーぞ


月もすっかり隠れた闇夜、木々の間を縫う様に駆け抜け
森を越え暫く走った処で天人の艦が遠くに見える


『ハァ…ハァ…』
切れる息を整えながら深く繁った草藁に身を潜め倉田の姿を探す


(ったく、どこに行きやがった
天人達が騒いでねえ所を見るとまだ見付かってねえな)


見付かったらひとたまりもない
息を潜め慎重に天人に悟られ無い様に先を進める




ふと斜め前方に見張り役だろうか、少数の天人達を見付ける


多分倉田はその近くで機会を窺っているだろう

その付近を注意深く目で探す

突破しようと叢から窺っている姿を見付け素早く駆け寄り

「やっと捕まえたぜ、倉田。」
小声で話しかける
「さ、坂田さん。」

「声デケーんだよ、
テメー死にてーのかよ、
あれだけ一人で勝手な事すんなって…


まあ、やっちまったモンは仕方ねぇ。
天人達に見付かる前に皆の所に戻るぞ。」

肩に手をかけ促す
「でも、俺はやらなきゃいけないんです。」
かけた手を振り払う様に銀時から顔を背ける

「バカ野郎一人で乗り込んでも蜂の巣になるのが分かんねーのか
ただ無駄死にしに行く様なもんだってのが分かんねーのかよ。」

「…」

「兎に角、今お前を一人で行かせる訳にはいかねぇんだよ。」

「…」

「俺達を信じろ。」


「分かったか?おめえの兄貴の仇は俺達が取るんだ…
兄貴だけじゃねぇ…今まで死んでいった奴等の分もな。」

「坂田さん…」


その時ガサガサッと何者かの近付く気配がする

「おい、そっちの方で何か物音がしなかったか?」


天人達が二人の気配に気付いた様だ


しまった…
ここで見付かったら今回の計画が丸潰れだ
奇襲をかけると知られたら一気に天人達に攻め込まれるだろう
数では天人側が圧倒的に有利である事は明白だ
万が一生き残ったとしても今回の責任として倉田の粛清は免れないだろう


それだけの覚悟をしてこの男は一人でここまで来た


俺はもう誰も失いたくない
絶対こいつを連れて戻る
腹も切らせねえ


息を殺し見付からない様に身を沈める

明け方近くの一番冷え込む時間
夜露の冷たさも感じない

ガサガサと辺りを見回し、不審な者は無いかと探しているが見付からず

「何も無いぞ。」
と答え仲間の元へ戻る気配を感じた

しめた

銀時と倉田が目を見合わせ
仲間達の元へ急ぎ戻ろうとした瞬間

「馬鹿め気付いておったわ。」

でかいトカゲの様な天人が銀時に斬りかかって来る

が、振り返り抜刀ざまに天人を二分に倒す


「走れ!」
声を掛け走り出した時に
ヒュンと風を切り裂く音がした

「うあっ」
飛んで来た槍が背中から脇腹を掠めた

「倉田っ!!」
前のめりに崩れる仲間を反射的に支える


「しっかりしろ、走れるか?」
抱き抱える様にかがみ声を掛ける

「坂田さん…俺には構わず行って下さい。」

「ほっとけるわけねーじゃねぇか。」
銀時の白い着物の袖が赤く染まっていく

「バカ野郎、また皆でキャバクラ行くって言ったじゃねーか」

「辰馬達の班がもうすぐ来る、諦めるな。」


「居たぞ、こっちだ。」

その声と共にぐるりと回りを囲まれた


そっと手を離し立ち上がると刀を構える
「倉田…お前を連れて絶対生きて帰るからな。」

大事なものを守れるだけの人間になりたい
守りたいものはすぐ側にある

もう誰も死なせたくない


天人達にジリジリと間合いを詰められる

一分の隙も見せず構える銀時に圧倒される
ゆらりとした光が眼に宿る
威圧感に居たたまれなくなった天人が次々と飛び掛かって来る

無駄の無い動きで次々と一刀にして倒して行く


「金時!」

辰馬の声だ

「金時無事じゃったか?」
「ああ…おっせーんだよ。」

「すまんすまんこれでも急いで来たきに。」

「分かってるよ、すまねえな。」

「ちょっと見惚れてな。」
「はぁっ?何言っちゃってんの?
馬鹿だろ、お前本物の馬鹿だろ。」

「礼なら後でたっぷり貰うきに。」

「てか、その前にこいつ等片付けるぞ。」

「おんしは怪我人を頼む、折角走って来たんじゃわしも一働きじゃ。」


言うが早いか敵の中に飛び入り十人程の天人をあっと言う間に倒してしまった


高杉やヅラも確かに相当強い
幼い頃からの付き合いだ
いざと言う場面での息も合う


だが辰馬は存在が別格である
剣術免許皆伝云々と言うものでは無く
これ程安心して背中を任せられる男はいない

揺るぎ無い信頼感とでも言うのだろうか
それとはまた別の様な感情の様だがこの気持ちに名前など意味は無い
ただ特別って奴なんだろうなとこの時の銀時はそう思っていた

倉田を担ぎ急ぎ陣営に戻ろうとすると高杉達からの使者が到着した

『この状況になり攘夷軍としては退けなくなってしまった
多分定期連絡が無いと天人達が慌てる頃だろう
見張りが襲われたと有っては総攻撃をかけて来るに違いない
ならばその混乱の隙に一気に叩く』
との事だった



奇襲の時刻は元々の計画通り
ほぼオンタイムで遂行され艦隊を壊滅させた


が、自軍の犠牲も少なくは無かった






本陣に戻った後、桂達から管理能力に欠けるとたっぷり絞られたのは言うまでも無かった






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