記念日

□青い短冊
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「のう陸奥、何か欲しい物は無いのか?」

唐突に聞かれても
「は?何をいきなり…」

此処のところ他惑星からの物資輸送の依頼が多く
通訳、翻訳の書類に追われ少しばかり気忙しい日々が続いていた

「確か陸奥の誕生日は七夕さんの今日じゃなかったかえ?」

「そうじゃが、だがそんな物はいらん。」
書類に目を通しながら忙しいから構わないでくれと言う様に答える

「何も用意しとらんき何か願いがあったら…」

「しつこい、そんなものはいらん。」

「えー、何か無いのかえ?」
視線を合わせてくれない陸奥の顔を覗き込む

「五月蝿い、まとわりつくな暑苦しい。」
避けていた陸奥の目が不意に坂本の目を捉える

一瞬豆鉄砲を食らった鳩の様に目を見開いたが
にっこり笑って「まあ、後で聞きに来るき何か考えとおせ。」
と残し陸奥の仕事机から去った



全く…忙しい時に限ってちゃちゃを入れて来る

「ふぅ…」
陸奥は一息つき湯呑みの茶碗に手をかけた

『すっかり冷めてしまったな』


部下の仕事効率やモチベーションを上げに来るなら兎も角、一旦思考を止めさせるとは隊を率いる頭としてはいかがなものだろうか…

まあ今更始まった事では無いが毎度この様な繰り返しでは困る




だが願いを考えておけだと…?

願いか…

そんなものは昔から只一つしかない

付いて行くと決めたあの曇り無き旅立ちの朝に誓った
もうこれ以上の願いなど無い

快援隊の仲間として一人の人間として
坂本辰馬と言う男に付いて行くと決めたあの日から




物には人によって色んな見方がある

出来ればこの男と同じ未来が見たい

ほんの少しでも

この男の追い求める争いなどの無い、人にも天人にも双方が利益を得る未来の形

その大義に強く惹かれ、この男から感じる量り知れない深さと広さ
揺るぎの無い信念は大きな磁石の様に人を惹き付ける



人の輪を作る魅力のある男なのだ




その為に遠く地球を離れ二度と故郷に戻る事が出来なくても
志半ばで命を落としたとしても自分が望んだ道
後悔はしないだろう


出来れば一番傍で
同じ感慨を持って
同じ目線で見たい
魂の近い処で

それが私の願い


坂本の理想の未来に立ち自分がその真の価値に気付けなかったとしても
本当の意味に気付けなかったとしても
後悔しないだろう

それも坂本辰馬と言う男の掴み所の無い魅力なのだから



「陸奥さんお茶どうぞ。」
冷たくなったお茶に替わり差し入れられた茶の香りは陸奥の心を落ち着かせた

ふと机の上に竹筒に入った水羊羹と青い短冊が置かれていたのに気付く
さっき坂本が置いて行った物だろう

さっき迄気忙しく感じていた心が軽くなった

『敵わんな…』

自分の中で押さえていた女としての感情が揺さぶられる

今はこの一瞬の感情だけで十分
心が満たされる事の幸福感を教えてくれた

これからも共に居たいと辰馬の背中に穏やかではあるが熱い瞳で強く願った






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