短編

□釣糸の先
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きらきらと川面は陽の光を反射し時折ザーッと木々の枝を風が揺らす
川辺には二人の姿だけ

「なぁ〜さっきから釣糸ピクリともしねーけど
ちゃんと餌付いてんの?それ。」


片手枕をつきながら釣り人に声を掛ける

「ん?ああ餌か…どうじゃったかのう。」

釣り人は足らした糸の先を見詰めながら口許を僅かに緩ませ呑気に返事をする

「餌かって、はあっ!?お前魚釣ってんじゃねーの!?

餌も無しに何釣る気だったんだよ。」

ぶちぶちと独り言を漏らしているのは坂田銀時

釣り人は坂本辰馬

「てかお前今日皆と一緒に買い出し行かなくて良かったのかよ。
可愛い子ちゃん釣り上げるって言ってなかったっけ?」

「んー、今日は何となぁく気分が乗らんかったき。」

「ははあ、さてはこの間の姉ちゃんから病気でも移されましたか。」

「そそそ、そげんことあるわけななな、無かろう。
嫌だなあ銀時くんは意地悪ばっかりぃ。」


「明らかに動揺しまくってるじゃねぇか、図星かよ。」
あっはっはっと一頻り笑った後明らかに落ち込む様子で溜め息をつく釣り人辰馬

「自業自得だ、暫くは悪さも出来ねぇでやんの。」

流れる川の音、囀ずる鳥達の声、木々の間から漏れる陽が夏の太陽を柔らかくし
穏やかな時間が二人を包んでいく


お天道様が真上に来、影も短くなった頃

「金時、腹空かんか?
握り飯持って来たき。」

「銀時だっつーの
空く空かねえの前に腹立ってますけど。」

「まあまあ怒るなちや。」
側に来る様においでおいでと手で合図する

子供じゃねえって…と心の中で呟きながら胡座をかいて座っている辰馬の横に腰を下ろす

ふと釣竿に目をやる
「なあこの釣竿餌どころか針も付いてないんですけど。
ちょっと今寒気を覚えちゃったんですけどー。」

「あっはっはっこれで星ば釣り上げようと願掛けしてたぜよ。」

「太公望気取りですかコノヤロー。」

「まっ星釣り上げる位の大物釣り上げようとしとるき。」

「此処には文王なんて居ねぇぞ、俺達だけだっつーの。


え…?何だよ。」

ドキッとする程真剣な顔で一瞬銀時を見詰めた後
ふっと笑みを浮かべ辰馬は空を仰いだ

攘夷軍の居留地に戻る迄の間
多くの言葉は交わさなくも二人の間を流れる空気は確かに二人だけのものだった



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