短編

□夏の思い出
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あ、暑い…

容赦無く照りつける太陽は周囲の影を奪い己の体力をも容赦無く奪っていく
目に映る筈の景色も明滅する光だけ網膜に残し
蝉の鳴き声が耳鳴りの様にわんわんと頭蓋骨に鳴り響く

既に意識は飛びかかっている


喉が渇いた

喉を湿らせようと唾を飲み込もうとしても乾き切った喉は口腔の奥ですぐ吸収され無理に飲み込もうとし余計に貼り付き痛みを伴った

普段死んだ魚の目の様だと自他共に認める眼も既に冗談では無くなっている


額から顎に伝った汗は流れ落ち地面にジュッと消え痕も残らず気化した

あっじぃ…

今すぐバケツいっぱい水飲みてぇ

頭から水浴びてぇ



てか…俺なんでこんな思いしてるんだっけ…?
ここは砂漠なんかじゃねぇ
かぶき町の公園だ
水飲み場だって噴水だってある

耳鳴りの向こう側で子供達が無邪気に笑ってる声が聞こえる

蜃気楼の奥にいつもと同じ風景が覗き見える

「銀ちゃん何してるネ
早く新八のとこに行くアル。」


ああ…そうだ今神楽と…



「ああ…今…い…く…」

ふらり立ち上がった途端、頭に重い痛みを感じ暗闇に吸い込まれた

「銀ちゃん!」

神楽が俺の名を呼んでる
意識が…遠…のく…



**************



いつの間にか公園の木陰で横になっていた


「銀ちゃん大丈夫アルか?
休憩終わったネ
次は新八の道場でスパーリングの時間アル
もたもた…」


神楽の声が遠くに聞こえる…
ああ…そうだ

『明日はどっちだ!?かぶき町ボクシング王決定戦』
に出るんだったっけ

「銀ちゃん何モタモタしてるアルか
ライバルはこの隙にどんどん強くなっていくアル
優勝賞金と副賞の寿司券焼肉食べ放題券取られちゃうネ。」


おい…竹刀を足元でバシバシ叩きつけるなよ
俺今気ぃ失ってたんじゃないの?

「銀ちゃん位のリーチがあればこの町のライト級は楽勝ネ。」


いやいやその前に餓死して死んじゃうからね
今のままのウェルター級で充分じゃね?

未だズキズキと痛む頭を抱えて体を起こす

不景気なこのご時世に賞金なんて期待は出来ないが
ありがたい企画だ

「銀さーん、神楽ちゃーん。」
声のする方に顔を向けると新八が全速力で走って来るのが目に入った


「おっ新八、出場申し込み終わって迎えに来たアルか?」

息を切らし駆け寄って来た

「ハァハァ…うっ…ハァ
今…大会の申し込みに行ったら階級別…て学生の部、一般の部、それと女子の部の事みたいでしたよ。」



…はあっ?

「ふーん、じゃ階級別じゃないアルか?
銀ちゃん食事制限しないで良くなったアルな
さっ すぐにスパーリングの練習ネ。」



「はあぁぁっっ!?」



その後銀さんは僕や神楽ちゃんに散々悪態をつきまくり
バケツいっぱいの練乳苺かき氷を食べまくりお腹を壊してボクシング大会どころじゃなくなりました

夏の思い出にしてはしょっぱ過ぎますが
夏の忘れられない思い出がまた一つ万事屋に出来ました

残りの夏も楽しく過ごせる…

馬鹿馬鹿しいかもしれませんがそんな仲間の傍に居られて僕は幸せです



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