短編
□あたたかな彼のひとは
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日だまりの穏やかな午後にも
雨戸を叩きつける嵐の夜にも
指先かじかむ冬の寒さの中でも
起き抜けで眼を擦るいつもの朝にも
いつもいつもあの人がいて生きてゆく本当の意味を教えてくれた
時間が解決なんかしてはくれない
胸に空いちまった穴は埋まる事は無い
永遠の喪失
もう二度と触れる事も語る事も出来ない現実を只々ゆっくりと受け止めていくだけ
亡くした後で気付いた事がある
自分がどれ程愛されていたかを
護られていたかを
それは気付く前よりももっと身も、心も、魂をも引き裂かれる様な痛みを伴った
愛された日々は忘れない今もこれからも…
初めて知った他人の温もりそれを教えてくれたのは
俺を人間に生まれ変わらせてくれたあの人だった
今も俺を…俺達を見守ってくれているのだろうか
揃いも揃って不甲斐ねぇ弟子ばっかりでおちおち成仏も出来ねぇだろうな
早く成仏させてやるのが師匠孝行ってんだろ、十分判ってるよ
こっちの事はこっちでカタをつける
だがもう少し俺達を…見守っててくれ
大事な何かを二度と失わないように
あたたかな彼のひとは
今も見守っているのだろう穏やかなあの微笑みで
***
『彼岸のひと』提出作品