短編

□声
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身体の奥底で何かが聞こえる

日に日にそれは大きくなっていき
何か意味を持った叫びの様でもあった

それに気付いたのはいつからだったろう




先日の敵の奇襲で多くの仲間を失っていた


「銀時、言っておくがあの時の事はどうしようも無かったのだ。」
未だ悔いている様子の銀時に桂は多少苛立ちながら声をかけた

どうしようも無かった…だと…?
ギリギリ唇と噛み締めた銀時の口角より血が流れた


「傲りも過ぎるぞ。
あの時自分がああしていれば助かったかもしれないなんて思い上がりだ。
あの戦いの最中最善を尽くし命懸けで戦い散って逝った奴等に対しての侮辱以外の何物でもない。
お前は自分が何様だと思っているのだ。」


「っ…」
腹立たしいがこいつの言っている事は間違ってはいない
だから余計に自分に腹が立つ

確かに背後からの急襲を受け陣形を取れず完全に包囲され為す術無く大敗を期し多くの仲間を亡くした



だが…己がもっと早く気付いていたら
撃破していたら


結局俺は何も護れない



じっと己の掌を見ていた
どんなに拭っても拭っても仲間や敵の血を浴び身体に染み込んで自分が何かに侵食されている様な気がする

『まただ…また何かが俺の中で叫んでる』


「手相でも見ちょったか金時。」

ズカズカと俺の隣に来てどっかりと座り込んだ

「うっせ、俺は銀時だっつーの
今お前の相手してる気分じゃねぇんだよ。」

「のう、おんしは心ん中で誰かが叫ぶ声っちゅうもん聞いた事あるがか。」

「はぁ…? 
何それ何かに取り憑かれてんの?」
唐突な質問をする辰馬に適当な言葉で返した

「いやぁ…何だか自分の中で何かが起こりそうな
自分の居場所は此処じゃないちうか…」

不思議だ…
俺の中に起きてる違和感と同じ物をこいつも感じていた


「のう金時、我思う故に我ありじゃが
おんしはちっくと考え過ぎる傾向があるき
考え過ぎるとろくな事にはならんぜよ
我思う…思い余って我なしじゃ
考え過ぎると自分が何物か分からなくなるぜよ。」



「わしもおんしと同じじゃ
目先の事に囚われて大事なもんが見え無くなる
さっきも言うたがこん国ばなんとかしたい気持ちは変わらん
じゃが…じゃが何かが叫んどるんじゃ。」


この男は不思議だ…
話している内に辺りが急に眩しくなっていくのを感じる



「なぁ…お前はこれからどうすんの?」

「わしか?わしはわしの土俵で戦い続けるちや。
まぁだ答えは見付からんき
おんしはどうするがか?」

それぞれがそれぞれのやり方で戦っている

「俺は…変わらねえよ
護りたいものを護るだけだ。」
お前等がしっかりと暴れられる様にな

俺を見ていた辰馬の顔が大きな笑顔を見せた
「それでこそ金時じゃ。」
「ばあか、俺は銀時だって言ってんだろ。」





我思う故に我あり
我思い余って我なし
囚われるな
頭で考えるな
声が聞こえている筈だ

探していた答えはとっくに出ていた
だがその真実に目を背けていただけだ
俺はあの戦いの中で本当の答えは出せたのだろうか


自分なりの決着は付けたそれは十分納得している


真実と答え
俺はまだ探しているのかもしれない

だが…俺の中にも獣は居て
今にも猛り狂いそうな程に餓えている


なあ…お前の心の声ってやつはまだ居場所を探して叫んでいるのか
それとももう真実と答えが見つかって…


聞こえなくなっているのか







***
企画『万華鏡恋歌』提出作
『THE BACK HORN/声』





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