短編

□言葉なんかいらない
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遥か空の雷鳴は昔見た花火の様で
懐かしさと近付く嵐に心を乱す
夕暮れ時の独りの部屋は忘れかけていた記憶が不意に蘇る
望むと望まざるとに関わらず



※※※※※※




ハァ…ハァ…ハァ…ッ…ハァ…

斬りつけ合う中で零れた刃は生き物の血と脂を散々浴び、あっと言う間に切れ味もすっかり鈍る

大きく肩で息をつき頬から顎に伝い流れ落ちる大粒の汗
朦朧とした中でもその瞳は冷静さを欠く事無くその奥は光を失わず、満身創痍であるにも拘わらず面する天人に威圧感を与えている


ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…

喉が張り付く…唾を飲み込んでやれば鉄の味がする

その時薄暗い空に一瞬薄紫の光が明滅した
雷鳴が合図

『そろそろ銀時達が合流してくる筈だ』

なまくら刀を握り直すとそれを合図にしたかの様に威圧感に耐えられなくなった天人が飛びかかってくる
叩き斬る分には長期戦は骨が折れる
ヒューヒューとさっきよりも息が上がって喘鳴になってくる

高杉率いる鬼兵隊は背後をを崖に天人の兵に徐々に追い詰められていた


にじり寄る前方の天人が高杉達の後方に視線を移し僅かにザワつき出した
崖下から赤い煙が昇って来るのが見えたからだ


『ッ…、来んのが遅えんだよ…銀時』

「悪いな高杉、待たせちまったか?」
高杉の心で呟いた声に答える様に天人軍の横っ腹を衝いて銀髪の男が現れた

「お前なんか待っちゃいねえよ
何だあの狼煙は」

「ああ、あれ?」
背後に立ち上る赤い煙に親指を向ける

「あの馬鹿モジャが天人の艦弄ってて爆発させちゃったんだよねえ〜
あの狼煙はオプションだけど」
しれっと空を見、聞こえよがしに言った

肩で息を吐いていた高杉は口の端だけを僅かに上げ
「はっ…、聞いたかー? お前等の帰る艦無くなっちまった様だぜー?」
と前屈みになり構えていた姿勢から背を起こし余裕の体勢となった

蜥蜴の様な天人はたじろぎながらも子供騙しな罠に嵌まるものかと
退路を振り返りもせず目の前の地球人を皆殺しにしてやろうと殺気に満ちている

「嘘だと思うんなら後ろ見てみろよ、仲間の屍山積みになってるよ」

桂率いる攘夷軍と坂本率いる快援隊が各々の相手であった天人の残党兵を追い詰めながら背後に来ていた

「いやー遅れてすまんき、
ちょーっと艦弄ってたらヅラに叱られて遅くなったぜよ」

「ヅラじゃない桂だ
この場面で遊んでるお前が悪いに決まっているだろう
俺を遅れた理由にするな」
「な、馬鹿二人は兎も角囲まれてただろ?」

追い込んでいた筈がすっかり回りを囲まれていた

「白夜叉、貴様ーっ!!」
一斉に銀時に向かって斬りかかる
「各個撃破…戦術の基礎中の基礎だろうが」
そう呟き斬りかかる敵の中に飛び込んで行った




※※※※※※



あの時の俺達は夢でも嘘でも幻でも無い
確かに同じ景色同じ空気同じ水を飲んで同じ飯を食って同じ死線を潜り抜けて…

それだけでも特別の感慨はあるんだよ

今は別々の方向にバラバラの目標目指して歩いている
でもな過程はどうあれ、道の途中の同じ樹の下にまた集うのかもしれない
俺達がこのまま終われる筈が無いって知っているからだ


暗闇の中を一人歩いて来た訳じゃなかった
歩む道には様々な出会いがあって
時に交わったり、肩を並べて歩いたり
立ち止まっていた中で暖かく手を差し伸べてくれた人もいる

俺の後を付いて来てくれる奴もいる

だが皆が同じ処に辿り着く訳じゃない

その中で出会ったんだ

言葉なんか無くても


俺達は知っている
この道が続く限りまた出会う

その再会はどんな形になるであろうと
 
 
 
 
 
 
 


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