三弦調

□断金
1ページ/1ページ



チカチカと光る方向に目をやれば人気の少ない小道の奥から赤くパトライトが明滅している

「また事件でござるか…」

年の瀬は物騒な事件が多い

経済低迷、生活困窮…
只でさえ気忙しく何かと物入りになる時期にこの様な有り様では
年を越す準備もろくに出来ない者も大勢であろう

馴染みの音楽関係者にどうしてもと言われ暮れの挨拶としての酒の場に呼ばれたが
年々規模が縮小していくのを目の当たりにする

『今年は随分人数も減ったな…』


だが不況と云えど其々価値観の違いで海の向こうの国に買い物に出掛ける者も少なくないとか…


人の認識や価値観には各々差があるものだ



かの一休さん、一休宗純法師はしゃれこうべを片手に正月の町を

「ご用心召され、正月は冥土の旅の一里塚、めでたくもありめでたくもなし」と説き歩き
縁起の悪い坊主だ、気味が悪い等と石を投げられたと云う話も伝え聞く…


新しい年を迎えると云う事は
確実に一つ年を重ね死に向かうと云う事


果たしてそれは本当に目出度いのかと疑問を投げ掛けられるが
それでも人は新しい年に希望を持ち煩悩を祓い
新たな気持ちで正月を迎える
生を受け生きて行くと云う事に従順だ

明日はどうなるものかも分からぬこの世の中であっても
今より少しでも幸せに暮らしたいと願う



人と云うのはそういう生き物なのであろう



この時期の唄であればこれでござるか


『万歳』まんざい



大漁豊作を神に願い
あらゆる目出度い言葉を並べ言祝ぐ

時は家斉殿の時代…江戸の三大飢饉
天明の大飢饉の時に作られた曲だそうな





力強く華やか

繊細でいて親しみやすい

貧しくともこの様な曲が生まれるのは人が何かを信じたい
信じられる何かを信じていたいと云う願いの現れなのだろうな


だが拙者は神の存在を問う気などは無い


人という生き物は昔から
貧しくどん底にあっても希望を忘れない生き物




あの男…


どんな窮地であっても己の信ずる処を貫く


『白夜叉…か』


天人の傀儡に成り下がったこの国をそれでも守ると言う


いや…お主は国なんかの為じゃ無かったでござるな


それほどまでに此処に大切な物が在ると云う事でござろう


せいぜい守ってやるが良い


だがお主に晋介を止められれば…の話だがな







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ