拍手文

□辰馬独り酒
1ページ/1ページ




湯呑みに気に入りの酒を注ぎ窓辺に佇む





地球はやはり美しいのう


地球を肴に呑む…なんと贅沢な事だろうか


掌を上にし、丁度地球を乗せる様に見る

宇宙に出ると改めて地球の美しさや命の貴さを感じる

遠くに見えるあの小さく、その中でも小さな島国で今も同胞である人々が日々を送っていると思うと



愛しくて堪らない



今頃江戸は夕食前

人々が一日の疲れを片手に家路へ着く頃だろう


『すまん、わしはお先にやっとるき』

誰に対しての『すまん』かは分からないが
自分以外が働いている時間に旨い酒を呑んでいるのに多少の気が退けた


元々は真面目な性格なのだろう

普段は馬鹿だと皆に認識されているが
実際仕事の能率、手際、何より勘の良さや先見の明は他の者の及び等つかない程のだ
加えてその懐の大きさ
男女を問わずその人間性を知ったら心酔してしまうだろう

無意識の内に人の集まる男だ

この男が本気で『欲しい』と思ったら手に入らない者は無いのではないか


でも世の中は儘ならないもの

その辰馬にも心を掻き乱す人物が一人

どんなに思ってもどうにもならない相手

いっそこの燃える思いの丈を遂げてしまおうと手を伸ばした事もある

だがいざとなると体が震える


伸ばした手に電流が走る

触れただけでも感じてしまうのだ


笑えないよな…酒が少しだけ苦いものに感じる

一時の劣情に走るより
永遠に会えなくなる方が辛い

側に居たら何もかもを壊してしまう

だからあいつの為にも今はこの距離が丁度良いのかもしれない


いっそお前が女だったら…

いや…止そう


全て初めから承知の上の思いだ


今一時はこの酒を楽しもう


かくも美しき星と焦がれて止まない彼の人を想いながら


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ