長編

□巡る思い《後編》
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『私は…あの家の下働きをしていた者です。
元はあの辺りの豪農で大変栄えておりました。』

聞けば飢饉の際に夜盗に入られ備蓄米や家財を盗られたばかりか
一家を含め住み込みの者まで一人残らず殺されたと言う

数馬さんと言うのはその家の病弱な長男で娘と恋仲だったそうだ

身分は違えど先の短い息子を憐れに思った両親は敢えて仲を引き離す事はせず
娘の事も大層大事にしてくれていたらしい

『私は此処でずっと数馬さんを待っていました…』

銀時の身体を借りたのは偶然だったと言う…


『この方の心に私の思いに近いものを感じて…
悪いと思いつつ体をお借りしました。』

銀時の心と近いもの…

その時ポゥ…っと擬似針が仄かに光った

辰馬は身体に別の意識が入り込んで来たのが解った

(すまない…ほんの一時お主の体を貸してくれ)

男の声が直接意識に語りかけてきた

よし、と返事をする間もなく
(ありがとう。)
と男の声が響き身体を預けた

きっとこの男が数馬なのだろう
流れ込んだ意識が告げる

『私の思いに近いものを感じたから…』

わしの思い…?



暫くして夕陽の眩しさに惚けていた意識を取り戻す


あの二人は成仏したのだな…


沢を下りる途中で
「なぁ、本当はさっき…」
銀時がぼそっと声を出した
「いやー腹減ったのう、晩飯は何だったかのう。」

「さあな…。」

銀時は沢を下りてしまったらもう聞けないと思った

多分二度と聞けないだろう

自分の思いが何であるか肯定してしまうのが怖い



何故なら…

二人共あの成仏したであろう男女に身体を明け渡しはしたが、うっすらと意識はあった


一瞬ではあったが隙間が無い程抱き締め合い唇が重なった瞬間
昇華していく魂を感じた


辰馬も銀時も


急に身体を離すのもわざとらしい気がした訳では無い

離れ難かった


二人が自然と離れ、繋ぐ銀糸が肌に付き冷たいと感じた瞬間


気付きそうな気持ちを閉じ込めなくてはと思った


成就する事は無い不毛な思いを閉じ込めるには
踏み込み過ぎてしまった

いつか閉じ込めた筈の想いが吹き出すのだろうか






それから二人は今日の事を胸にしまい込み
留まる事が罪の様に一層激しくなる攘夷戦争を走り続けた
 
 
 

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