ONEPIECE

□アルトルイストとエゴイスト
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「ルッチ」


コツン、コツンと後ろから足音が近づいてきた。


「どうしたんだ?」


間違いない。
振り返らなくてもわかる。


「……パウリー」
「何してんだよ、こんなとこで」


パウリーはいつもと同じ優しい声だった。

俺はと言えば、死角になっている暗闇で膝を抱えてうずくまっていた。

一体どれくらいこうしていたのだろう。

急に襲ってきたアイツに怯えていた。
震えて、消えろ消えろと念じていた。


「何でもない」
「なわけねェだろ」


こいつは優しすぎる。

俺が何に対して怯えていたのかも知らないくせに。


「ハットリがバサバサバサバサ飛んでたぞ」


そういえばハットリがいない。
いつからいなくなったのだろうか。


「ほれ」


パウリーは胸の中にハットリを抱いていた。

ウルサかった、迷惑だった、捕まえるのに苦労した、と散々言ってパウリーは一笑した。

ハットリと目が合う。
どうやら少し怯えてるようだ。


「なぁ、ルッチ」


今度はパウリーと目が合った。

お互い無言のまま、しばらく――と言っても実際は二、三秒ほどだったのかもしれない――見つめ合っていた。


「……ッポー」


ふと俺は思い出し、急に腹話術をやってみる。

それまで張り詰めた顔をしていたパウリーはプッと吹き出した。


「今更、だな」


それでも俺はやらなくちゃならない。
俺はガレーラカンパニーのロブ・ルッチなのだから。


「大丈夫だッポー。ルッチは俺を探していただけだッポー」
「じゃあお前はどうしてあんなにバサバサバサバサ旋回してたんだ?」


また張り詰めた顔をしてパウリーがハットリに訊く。


ハットリは――俺は――答えられない。
きっと怯えていたからだ。

呑み込まれそうな俺に。
呑み込みそうなアイツに。


「なぁ、お前――」


次は俺に目線を移した。

たった一瞬だったのに、間合いが嫌に長く感じた。
次に言う言葉を分かっていたのに、俺はそれを遮ることが出来なかった。
そんな余裕がなかったんだ。
息をすることすら忘れていた。


「――俺に何か隠してねェ?」


その言葉は死刑宣告に似ていた。
予想していたのに、頭を殴られたような衝撃だった。

パウリーは馬鹿な程に真っ直ぐに俺を見た。
馬鹿な程純粋な目をしていた。


「……しょうがないッポー」


俺は諦めたように笑うふりをする。
そしてポケットから何かを取り出すふりをする。
ガサガサと探すふりをする。


「この前のクジが当たってたんだッポー」
「えぇ!?本当かっ!?当たったら飯、奢ってくれるって約束したもんな!」
「あァ、そうだッポー」


しばらくポケットに手を突っ込む。
カラッポのそれは妙に生ぬるい。


「……ルッチが家に忘れてきたみたいだッポー」


なんだ、じゃあまた今度一緒に食いに行こうぜ、とパウリーは楽しそうに笑った。

そして


「よし、今日は俺の奢りだ!」


と俺の肩に腕を回す。

それじゃあ意味がないだろうと言おうとしたが、あいつの横顔を見るともうどうでも良くなってしまった。

こいつはこういう奴なんだ、と心の中で微笑んだ。



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