その他
□そこにあるのは何も無いもの
5ページ/5ページ
「……ん」
ジュリアが目を覚ますと、デヴィッドは横にいて無表情のまま車を走らせていた。
外はまだ暗く、時刻は四時を示していた。
「どうしたの?エンジン」
「雨が止んでからガソリンスタンドへ行った」
「何時に止んだの?」
「二時。君が寝てから直ぐだ」
デヴィッドの足元を見ると、ズボンや靴は泥で汚れていた。
「開いていたの?」
「……拝借した」
ジュリアは何も反論せず、ただ
「そう」
と言うだけだった。
「もうすぐ着く」
「そうね」
バスで帰る方が早かったわ、と言おうとしたが彼と口論をする力も残っていなかった。
さっさと風呂に入って、ベッドで寝たいという思いでいっぱいだった。
デヴィッドが車を停める。
ふたりは降りる。
「ありがとう」
何の感情も含まれていないような声でジュリアが言う。
「あぁ」
そしてデヴィッドも同じように返した。
それからすぐにふたりはそれぞれの部屋へと入って行った。
この頃のふたりは赤い盾の同僚として、馴れ合う事もせず、相手のことを知ろうともしなかった。
どんな感情さえも、ふたりの間にはなかった。
恋心なんて持つようになるのは、もう少し先の話。
fin...
09.04.26