その他
□この円舞曲が終わるまで
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隣の隣の部屋にハジがいた。そこもやはり大きな部屋で、ハジが寝ていたのも大きなベッドだった。
「ハジ……」
そっと彼女を床に降ろす。小夜は一目散にハジの所へ駆けて行った。
「大丈夫です、眠っているだけ。ただ、彼はあなたを庇って深手を負っています」
「本当に大丈夫なの?」
「ゆっくり休めば大丈夫です。戦闘で疲労も溜まっていたんでしょう」
そうなの、と安心したように小夜は胸をなで下ろした。ハジの顔に耳を近づけると、すーすーと規則正しい音が聞こえた。
「ありがとう、やっぱりハジも疲れてたのね」
「小夜のお役に立てて光栄です」
ソロモンは小夜の前に跪き、手の甲にキスを落とす。こういった事に慣れていない小夜は驚き、顔を真っ赤にして手を引っ込めた。
「ねぇ、どうして私にここまでしてくれるの?」
小夜はやはり理解できない、といった顔をする。
「私達の目的は何だか知っているの?」
「ディーヴァ及びシュヴァリエ、その他翼手の殲滅……ですよね?」
まだ彼女は納得いかない。目的を知っているなら尚更、彼が自分達を助ける理由が見当たらないのだ。
「ねぇ小夜、ここは安全です」
すっとソロモンは小夜の頬に手をあてた。彼は悲しい顔をしている。
「もしあなたが望むなら、ずっとここにいたっていいんです」
ソロモンはきっと、最初から彼女の答えを知っていた。訊かなくとも、それが極自然で当たり前な事なのだから。だから悲しい顔をしているのだ。
「ハジも一緒でもいい。そうだ、赤い盾ごと僕が……」
「やめてよ……やめて、ソロモン」
小夜は彼の手を振り解く。彼女も悲しい顔をしていた。
望んでいるのは小夜ではなく、ソロモンだった。ずっとここにいて欲しい。叶うことなど決してないのだけど。
「すみません、小夜。ただ僕は――」
彼は何か言い掛けて口を噤む。諦めたように首を振る。そして慈しむように小夜の髪を撫でた。
「僕と、踊っていただけませんか?」
ソロモンは穏やかに笑い、小夜の前にスッと手を出した。リセのあの夜を彷彿させるように。
小夜は戸惑い、寝ているハジの顔を見た。起きる気配は微塵もない。
「来てください」
そう言うと、また彼はふわりと小夜を抱き上げる。
「ふぁああ!」
咄嗟のことに間抜けな奇声を発する小夜に、彼は笑った。ぎゅっと体温を感じるように小夜を抱き締めた。
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