ONEPIECE
□世界の全てを、置いてきた。
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世界の全てを、置いてきた。
カリファは無言のまま空を見つめていた。
ぼうっとして、まるで死体のように青白い。
時折動く右手だけが彼女の生存を知らせる。
何年か前――少なくとも、わしらがここに帰って来て――からカリファは煙草を吸い始めた。
煙草を吸って、髪を随分短く切って、無口になった。
「カリファ、雨、降っておる」
虚ろな目でわしを捕らえた後、何事もなかったかのようにカリファはまた空を見つめる。
「雨が部屋に入ってしまう」
そう言ってわしは窓を閉める。
わしの一連の動作を、無関係のことのように目を向けることもなく、カリファはケースからまた煙草を取り出す。
わしはカリファから煙草を取り上げた。
一瞬、わしの目を見て、それから諦めたように空を見つめた。
「カリファ」
たまらなくなり、わしはカリファをぎゅっと抱きしめた。
『大丈夫よ』
小さい頃、よく、あやして抱きしめてくれたカリファ。
ぎゅっとしてくれる、彼女のぬくもりが身体の中に染み渡る。
「大丈夫じゃよ」
なるべく優しく、昔の彼女のように囁く。
カリファは悲しいほど冷たくなっていた。
「いつから、こんなに小さくなったんじゃ」
ぎゅっとしてあげたいのに、力を込めれば彼女は折れてしまいそうなほど痩せていた。
カリファは何も話さず、ただ虚ろに空を眺めている。
いつから、わしらはこうなってしまったんじゃろう。
いつから、笑顔さえも忘れてしまったんじゃろう。
いつから、生きることを苦痛にしか思わなくなってしまったんじゃろう。
いつから……
わしのぬくもりは、きっと彼女に届かない
fin...
08.08.30