その他

□ライト兄弟に愛を込めて
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そこに空があるからと、ライト兄弟は言ったとか言わなかったとか。





ライト兄弟に愛を込めて






九太郎は空を見る。
宇宙の空とは違う、地球から見る真っ青な空。
飛行機雲がぐんぐんと上に伸びていた。


「さて」


お手製のロケットを浜辺に置いた。
ゴーグルをして、点火する。
ゴゴゴ、と凄まじい音をたてたのも束の間、上へ行くはずのロケットはくるくると旋回した。


「やべっ!」


あらぬ方向へ右往左往した後、九太郎の元へと帰ってきたのだ。
目を閉じると、ズサァっと砂が降りかかってきた。
ロケットは砂浜に突き刺さって燃えていた。
それはもう原型を留めていない。


「あっぶねェ」


彼は急いで火を消す。
焦げたニオイが漂っていた。


「また失敗か……」


異臭を放ち灰色になったそれを拾い上げ、ため息をつく。
まだ少し熱い。


「こんなんじゃ、宇宙船員は愚かデブリ屋にもなれねーよ」


後ろには八郎太が立っていた。
いつの間に地球に帰ってきていたのだろうか。
振り返りもせず、九太郎はロケットの破片を集めている。


「うるせーよデブリ屋」
「んだと?このチビスケ!俺はな、いつか木星に……」
「ライト兄弟だって、ガガーリンだって、フォン・ブラウンだって超えてやる!」


九太郎が威勢良く振り返る。
だが、そこには八郎太の姿はなかった。
点火で焦げた砂と、ロケットの破片が少しあるだけだった。


「……」


人は空を飛ぶことを望んだ。
そこから、その欲望は宇宙へと広がっていった。
まだ向こう、もっと遠く、遥か彼方へ。
ライト兄弟から始まった個人の欲望はいつの間にか人類の欲望、そして課題へとすり替わっていった。


「見てろよ、いつか、行ってやるさ」


キラキラと海に反射するロケットの破片を握り締め、彼は真っ青な空を見上げていた。







fin...



09.05.24

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