サイボーグ009
□ジムノペディ
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トントン
か弱い雨音に紛れて、ドアの音がした。
急に元の世界に引き戻される。
「フランソワーズ、起きてるかい?」
ドアの向こうから優しい声が聞こえた。
「ジョー?起きてるわよ。」
私は歌うように応える。
「入っていいかい?」
「えぇ。」
私が返事した後、少し間があってからジョーがドアを開いた。
「どうかしたの?」
ジョーは少し驚いたように、その情熱的な赤い目で静かに私を見つめる。
あら、それはあなたのセリフだった?
「フランソワーズの部屋から、何か物音がしたから。」
「クラシックを聴いていたの」
音が大きかったかしら、冗談混じりにボリュームをひとつだけ下げる。
「眠れないのかい?」
ひどく冷静な彼の瞳こそ眠れないようだった。
思ってみれば、なんと奇妙な図なのかしら。
若い男女が深夜にふたりきりで同じ部屋にいて、しかも眠れないだとかそんなことを言っている。
「フランソワーズ?」
ジョーがそっと手を差し伸べ、私の頬に触れる。
思わず身体がビクッと反応した。
ごめん、と子犬のように彼はしゅん、とうなだれる。
それきり彼は何もせず、突っ立ったまま、ただ目を瞑っていた。
何を期待したの?
自分の思考に呆れ果てる。
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