ONEPIECE

□闇より遣われし暗殺者
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「……またアイツか?」


カクは目や耳を閉じ、怯えた子供のように三角座りをしていた。

返事はない。


「俺のとこにもよく来る」


吐き気のする人を宥めるように、ルッチはカクの背中をさすった。


「……最近、あまりにも多すぎるんじゃ」


震えた声でようやくカクが話し出す。


「あァ、そうだな」
「ここ数年、全く来んかったのに」
「……」


それがどういう意味なのか、ルッチは知っていた。

知っていたが、知らないふりをした。
まだ気付いていないふりをした。


「カリファやブルーノのとこにも来るらしい」
「それって……」


カクは顔を上げ、目を更に丸くする。

彼にもやっとその意味が理解できたようだ。


「…………海軍の情報によると、もうすぐ麦わらの一味がこの島にやって来るらしい」


酷く怯えた顔をして、カクが言う。


「またアイツに呑まれるのか?」


殺しを得意とし、血を好み、狂った思考をしたアイツ。
世界の全てを肉体から遮断し、感情までも欠落させてしまうアイツ。

ただそこにあるのは殺しへの悦び。
アイツはいつでも血を欲し、美しいと嗤う。


「カク、最期まで俺たちは俺たちのまま生きよう」
「呑み込まれる、最期の時まで?」


諦められないその顔は切なく、痛ましくルッチの心を突き刺す。

カクもきっとわかっている。

どんな抵抗をしたって無駄なのだ。
だってアイツは、生まれた時から一緒なのだから。


「それでも俺たちはここにいた」


自分に言い聞かせるようにルッチが言った。

そうしないと、虚しくて悲しくてどうしようもなかった。


「ガレーラカンパニー一番ドック職長ロブ・ルッチ、カク、秘書カリファ、酒場の店主ブルーノ」


だから大丈夫だと頭をくしゃりと撫でる。


「……そう、じゃな」


カクはにわかに笑った。

休憩時間の終わりを告げる音が空に鳴り響く。

むくりと立ち上がり、


「仕事再開じゃ、職長!」


とまたいつもの笑顔をルッチに向ける。


「お前も職長だッポー」


呆れたようにルッチ――ハットリ――が言う。

歩き出すと、後方からパウリーの呑気な声が聞こえてきた。


「おーい、ルッチ!カク!フランキー一家から材木届いたから運ぶの手伝ってくれー!」


ふたりは目を合わせて一笑した。


「了解じゃ!」
「了解だッポー!」


そしてパウリーのもとへと駆けていった。



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