その他

□たかが、戯れ言
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「いつからそんなことを考えるようになったの?」

 数日経った午後だった。カイもルイスも皆、出掛けていた。

「……?何のことだ?」

 頭に疑問符を浮かべ、デヴィッドは椅子に座る。そして白衣を着た綺麗な女性に目をやる。

「この前、車の中で死にたい、って言っていたでしょう?」
「君はいつから精神科医になったんだ?」

 デヴィッドは苦笑した。けれども、ジュリアはひどく大真面目な顔をしている。

「だいたい、死にたいとは言ってない」
「そんなニュアンスだったじゃない」

 ジュリアはいつもの冷静さを欠いていた。どこか、イライラしているような、不安げな様子でデヴィッドを見つめる。

「ねぇ、デヴィッド、答えて」
「私は赤い盾のデヴィッドとして、生きている。然し、所詮私はサイボーグ――弱い存在だ」

 嘗てジュリアに言われた言葉を自嘲気味に言う。

「感情を持たなきゃ、人は強くなれないわ」
「君は前にも同じ事を言ったな……。だけど、殺しに感情はいらない」
「違うわ。これは、誰かを守るため……」
「私はあまりにも人を殺しすぎた」

 デヴィッドは視線を落とし、ジュリアと目を合わさずに、悲しそうに笑った。

「それにこの状況で、生きたいなどと言っていられない。いつ殺されるかわからないんだからな」
「わかってる、わかってるわ」

 ジュリアは目を赤くしていた。目の膜に覆われた涙で、デヴィッドが歪んで見える。
 彼のその存在さえも、幻かのように。

「でも、」

「死なないで」





そんな言葉もこの世界では、
たかが、戯れ言。










fin...



08.10.17
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