その他
□アンドロメダ
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「アンドロメダ?」
何だか宝石みたいな名前ね、と彼女はクスクス笑う。
「アンドロメダ星雲。星の宝石箱だよ」
「へーぇ。ユーリはほんとに宇宙に詳しいね。初めて出会った日も、ずっと宇宙の話だったもん」
初めて出会った日のことを、あまり人に言わないで欲しいと言っても、彼女は聞き入れてくれない。
それどころか、「これは私たちの馴れ初めだもん」なんて言って、一言一句間違わずに、ふたりの会話――その中にはもちろん、オレのあのクサいセリフも含まれている――を再現する。
最後には「とてもカタコトの日本語でね、そんなことを言うのよ」と鼻歌でも歌いそうに機嫌良く笑うのだ。
現に、ついさっきも当事者に向かってそれをやり終えたばかりだった。
だからとても機嫌が良く、まるで子どものように平均台の上をスキップしている。
夜だから危ないと言ったのに。
オレはため息をついて空を見上げた。
彼女の瞳に似た空。
「私もユーリも、アンドロメダ星雲のひとつなのかな」
宇宙機の遊具の椅子に腰を掛けて彼女の話を聞く。
“パイロット席”
彼女はこの椅子をそう呼ぶ。
宇宙機を怖がっているのに、この遊具の椅子は大のお気に入りらしい。
「ユーリ機長!」
彼女はいつの間にか、遊具のてっぺんまで来て、オレを後ろから包み込んでいた。
彼女の暖かさが背中からじわじわと伝わってくる。
「この宇宙機で、一緒に星座を取りに行きましょう?」
「オレの技術じゃ、ふたりいっぺんにブラックホールに吸い込まれるかもしれないぞ?」
彼女はぎゅっとオレを抱きしめた。
きっとまた、穏やかに笑っている。
「それは本望であります」
fin...
10.08.10