その他

□同化実験
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違うの。違うの。
それは私じゃないの。
私なんかじゃない。
だから、





同化実験





 その瞬間、私はグッと天井を見つめる。天井を見つめて、その無機質で冷たそうなコンクリートの凸凹のザラザラとした表面を心の中で思い描く。
 だけど、それがうまくいかない時は彼の背中に爪を立てる。するとアンシェルは少し顔を歪ませるけれど、すぐにまたあの薄汚い笑顔を浮かべる。
 私の指は震えていて、爪を立てられた彼の背中から血が滲み出ているのを感じる。彼が動くたび、呼吸するたび、骨や肺が一緒に動く。私は神経をそちらに集中させて、何も考えてないようにする。
 私たちは産まれたての獣のように、重なり合っている。私が服を身に着けていないのはいつものこと。彼が服を脱ぐのはこの部屋に来たとき。
 “まるで人間とは言えないような行為”に彼は自ら嗤っていた。彼は親切なジェントルマンだけれども、卑下するようなこの目つきはひどくそれとは遠い。
 行為中、私は私ではないのだと考える。こんなことをされているのは私ではない。私は今、とても厭らしい映画を見ているだけ。ただ彼女は私に似ているだけ。本当の私はここにいるの。物影に隠れてこっそり見るの。おいたをした子どもが叱られているの。
 そして、彼についても考える。私の体に覆い被さっているのはアンシェルではない。嫌だと首を振るのに、それを無視して私の中を掻き回すのはアンシェルではない。
 だってほら、いつもは優しいでしょう?温かくて美味しい赤い食べ物を与えてくれるもの。ジョエルお兄様や使用人たちは私を冷たい目で見るけれど、アンシェルお兄様は優しいの。言葉も、歌も教えてくれた。
 だからこれはアンシェルお兄様じゃないの。悪い化け物が取り憑いているだけ。私は悪い夢を見ているだけ。
 行為中、そんな思考を呪文のように巡らしていた。自分が自分から離れていって、世界が遠くなり、何も感じずに済んだ。

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