その他

□同化実験
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「んっ、あっ、あっあんっ」

 ディーヴァは私の下で、意味のない言葉を朧気に繰り返す。私が動くたびに揺れる体は熱を帯びているが、背中に突き立てられた爪はまだ力を失っていない。
 この交配実験を繰り返すうちに、奇妙な現象が起こることが分かった。まず第一に、行為中の彼女の記憶が飛んでいるときがあるということ。第二に、主に行為中(以外の場合もある)に別の人格が現れるということ。
 普段の彼女は無邪気な子どものように笑う。表情が豊かで、何事にも純粋な好奇心があるようだ。まさに無垢という言葉がぴたりと当てはまる。(これを私はchild DIVA:cDと名付けた。)
 一方、行為中またはある時の彼女は暴力的で表情が少ない。瞳は鋭く、大人びた印象がある。(同様に、adult DIVA:aDと名付けた。)彼女はたまにこの人格になるのだ。

「あっ、ん、んっ、しぇるっ……こ、…んぁっ……、……ろ、してやるっ」

 ほら、まただ。気持ち良さそうに喘ぐくせに言葉が悪い。本当に殺意をもっているのかは定かでは無いが、気違いのようにそんな言葉を繰り返す。
 そしてしばらくしてから気を失って倒れ込んだ。次に目を覚ました時には、このことは覚えていない。それどころか、あの無邪気な少女に戻っている。
 何とも興味深い。私はこの現象について、ふたつの実験ができることを推測した。
 @このふたつの人格をひとつにする。
 Aまた新たに別の人格を増やす。
 しかし、私たちの実験の本来の目的は、翼手の交配実験であり、私たちはそれを完遂させねばならない。よって、交配実験においてはひとつの人格である方がより正確なデータを得られると結論づけた。
 よって、私は上記の@を行うことにした。なお、これから行う実験のことを“同化実験”と呼ぶとする。
 そして私は実験材料として、以下の三つを用いる。実の双子の姉・小夜、翼手の栄養源である血、血の元となる人間。
 まず、小夜に関しては、ディーヴァ自体が彼女に対して好意をもっているため。次に血に関しては、彼女の栄養源であり、本能的な欲求対象であるため。最後に、人間に関しては、これから先に必要になるであろう戦闘の演習としても有効であるため。
 さて、これらを用いていったいどのように同化実験を行うべきなのか。そこであることを思い出した。行為の後、目が覚めてからのディーヴァの言った言葉である。

「時々ね、私は、まっくろな部屋に閉じ込められるの」
「そして、声がするの。殺してやれ、って。刺せ、って」

 つまり、aDの状態にあるとき、cDは“まっくろな部屋”にいて“声”を聞いているということである。その“声”はおそらくaDのものである。というのも、行為中(aDの状態にあるとき)にそのようなことを私に向かって言うからだ。

「さて」

 私はペンを置き、彼女の部屋へと歩き出す。

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