その他

□あなたのために
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――深い青に染まる空を、羨ましいと思ったことがある

午前四時。船の中。部屋の小さな窓からハジはぼんやり空を眺めていた。





あなたのために





フランス、ロシア、ベトナム……色々な国を小夜と共にした。しかし、今回は違った。

沖縄で初めて小夜を見た時、言葉には出来ない感情が芽生えた。
今まで感じたことのない、言うなれば嫉妬に近いものなのかもしれない。

あの時の小夜の顔は、フランスの頃の顔でもロシアの頃の顔でもベトナムの頃の顔でもなかった。
“可愛らしく”そして一番“人間らしい”顔だった。

復活して、一年ほどしか経っていなかったのに誰が彼女を変えてしまったのか、と嫉妬した。


沖縄の空は青すぎて、私には綺麗すぎたのだ。




彼女は私のことを忘れていた。あの約束でさえ。

だからこそ、小夜に自分で思い出して欲しかった。




時々思う。


――もし、小夜が復活した時に私も沖縄にいて、誰でなく、私の為に人間らしくなったのだったら

浅はかな願いだと、自分で馬鹿らしくなってしまった。


「ハジ?」
「小夜……」


けれども小夜はここにいる。ここにいて、共に生きている。


「寝ないの?」
「えぇ、大丈夫です」


そう、と小夜は寝ぼけた顔のまま言った。
そしてまた眠りに就く。


「おやすみなさい、小夜」


彼女からの返事はない。

どんなことを考えても、過去は戻らない。
でも小夜はもう隣にいる。そして私はずっと小夜の隣にいる。

もう逃げない。死ぬのも生きるのも一緒だ。
あなたのために、私は生きる。



おやすみ、と私はもう一度言い、彼女の額に接吻する。



窓の外では、空がぼんやり明るくなっていた。






fin...



08.10.13

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