その他

□blue blood
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聖書でのソロモン王には、何もかもが満ち足りている。
足りないものなどなく、賢者として描かれている。

ソロモンは悲しい目をして書類を机に投げ出した。

目を瞑り、深いため息をつく。

――満ち足りている?

痛ましい笑顔を彼は浮かべる。

――賢者だと?この僕が?

馬鹿げている、と嘲笑した。

――これが満ち足りていると言うのだろうか?
――だとしたら、なぜ僕はこんなに苦しい?


「ソロモン」


アンシェルが部屋に入って来た。

ゆったりと歩く彼。
威圧感のある彼。

心の中の敵意をやんわり隠し、ソロモンは笑顔で迎える。


「どうされたんです?兄さん」


おや、とアンシェルは驚いたような、心外だとでもいうような顔をする。


「可愛い弟の部屋を訪ねてはならんかね?」
「いいえ、とんでもない。ダージリンでも飲みますか?」
「あぁ頼む」


ソロモンは立ち上がり、キッチンへ向かった。

アンシェルに背を向けたままソロモンは続ける。


「この前の書類ですが」
「ちゃんとヴァンから預かったよ。サンクフレシュの“ワイン”は最早世界最高峰だな」
「ありがとうございます」
「また近々ベトナムに“ワイン”を送るつもりだ」
「そうですか」

「そう言えば、ベトナムで小夜に会ったそうだな」
「カールから聞いたんですか?」
「さあな」
「カールかヴァンからですね。本当にお喋りだ、まったく……」


しばしの沈黙が続く。

お湯を沸かす音だけが、あまりに大きい。

棚からカップを出す時にチラリとアンシェルを見る。
アンシェルは兄弟の写真を見ていた。

無表情なその顔。
吐き気がする。



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