その他

□そこにあるのは何も無いもの
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そしてそれから四十五分経って彼がやってきた。

無言のままジュリアは助手席に乗り込む。
デヴィッドはラジオもつけずに車を運転し、ジュリアは携帯でメールを打っていた。

――ガコンッ!

急に車が止まる。


「え、ウソ、何?」


彼女は顔を上げて辺りを見回す。


「……」


デヴィッドと目が合う。
彼は一瞬、片方の眉をぴくりと動かした。
だが、またすぐに元の顔に戻る。


「どうやらエンストらしい」
「嘘でしょ?」
「……」
「……最悪だわ」


そこは人気のない場所で、誰一人通っていないし民家の気配すらない。
ただひとつ良かった事は、前にも後ろにも車がないということだけ。


「あっ……」
「どうした?」


ジュリアは深いため息をつく。


「電池、切れたみたい」


使い物にならなくなった携帯をバッグに入れた。


「あなたの携帯は?」
「……圏外だ」


ポーカーフェイスで彼が言う。
どうしてこんな状況でこんなに落ち着いていられるの、と人間性を疑いたくなった。

――ザアアァッ

外ではバケツをひっくり返したような雨が降る。


「天気予報で言ってた?」
「どっちみち動けないのだから、関係ない」



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