その他

□この円舞曲が終わるまで
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「――っ」


 ズキン、と頭が痛む。氷漬けにされたようにガンガンと響いていた。

 小夜はむくりと起き上がる。ふかふかのベッドの上に眠っていたようだ。思い当たりのない光景に頭がぼぅっとする。
 アールヌーヴォー建築の大きな部屋。それに似つかわしい豪華で大きなベッド。天井にはシャンデリア。テーブルも椅子も全てが一流ホテルの最上階並みだった。


「起きましたか?」


 コツコツ、と足音が大理石の床に響く。白いスーツに静かな碧色の瞳。うっとりする程に整った顔。甘く優しい声。

 小夜は彼を睨み付ける。


「ソロモン……」


 彼女は身構え、一歩でも動けば承知しない、と更にきつく睨んだ。


「そんな顔、しないでくださいよ」


 そんな小夜とは対照的に、ソロモンはやんわりと笑った。いとも簡単に彼女に近づく。そしてベッドの横の背の高い、白く小さく丸いテーブルの上にカップを置いた。


「キャラメルティーです。紅茶、飲めますよね?」
「ばっ……」


 馬鹿にしないでよ、と言おうとしたのにタイミング良く

 グルルルル……

 と小夜のお腹が鳴った。睨んでいた顔が緩み、顔を真っ赤にして俯いた。普通の女の子のような行動に、ソロモンは穏やかに笑う。


「どうぞ」


 彼が優しく言う。小夜は黙ってカップを手に取り、口に運んだ。それは甘く、熱を帯びたまま口から胃へとすとんと落ちていった。


「美味しいですか?」
「うん、美味し……ッ」


 満面の笑みを向けたのだが、ソロモンの顔を見た瞬間に小夜はようやく自分の立場を思い出した。


「どうしてあなたがここに?」


 カップをテーブルの上に置く。そして再びソロモンを睨んだ。ソロモンは、やれやれと苦笑した。


「翼手達に襲われていたあなた達を助けたんですよ」
「なぜ?あなたは私達の敵なのに?」
「敵ならば、助けてはならないのですか?」


 ソロモンは真剣な目をして小夜を見つめる。碧色の瞳は吸い込まれてしまいそうな程に美しい。彼の意外な質問に、小夜は困惑する。


「だって……あなたはディーヴァのシュヴァリエじゃない……そんな事、ディーヴァもアンシェルも許さないわ」
「そうですね」


 またやんわりと彼が笑った。


「だいたい、私はハジと……」


 ふと、小夜は周りをキョロキョロと見渡した。そう言えば、ハジがいない。


「ハジをどこへやったの!?」


 彼女は瞳を真っ赤にして問い掛ける。ベッドから降り、捜そうとする。
 ソロモンはふわりと小夜を抱き上げた。悲しい程に丁寧な扱いに正気を取り戻した小夜の瞳は元に戻る。


「こちらです」


 ソロモンが歩く度に足音が響き渡る。小夜は彼に身体を預けたままだった。


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