その他

□宇宙理論哲学
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「ハチマキ先輩っ」


目を開けるとそこにはタナベがいた。
怒ったように頬を膨らましていた。


「アンタ、ずっと寝てたわよ?」


フィーがタバコを吹かしながら俺を見る。
ユーリはその後ろで苦笑していた。


「タナベがずっとハチを呼んでたのに起きなくて……」


――そうか、だからあんな夢を見たのか


「うなされていましたよ?」
「あァ……だろうな」


はは、と乾いた笑みを浮かべてみる。
タナベはまだ怒っているようだ。

――なぁタナベ

独りじゃ本当に生きていけねェのか
死ぬ時は独りだろ
愛って何だよ
そもそも、宇宙って……俺たちって何なんだよ


「さぁ、仕事に行ってらっしゃい」


タバコはグシャリと灰皿に押し潰された。
それは俺の心臓のように容易く変形した。
フィーはまたケースから一本、タバコを出して火を付ける。
代わりなんて腐る程ある、と言いたげに。

俺は窓から空を見る。
そこに広がっているのは重々しい程に真っ暗な宇宙だった。


「ほんと、真っ暗だな……」


自嘲気味にぽつりと俺は言う。

あの夢の中のように、ここに投げ出されたら適わない。
この闇の中で足掻いて死ぬのか。
そして多分、永遠にここを漂うことになるのか。
でも代わりのパイロットなんてごまんと……


「先輩が暗闇で迷わないように、私が光になってあげますよ」


俺の絶望的な思考をよそに、タナベは屈託のない笑みを浮かべていた。
能天気なその笑顔が、俺の中の闇さえも照らしてしまいそうだった。

――あぁ、そうか

俺が恐れていたのは光だったんだ。
この光を求めることを、恐れていたんだ。
求めるともう二度と、闇には戻れないから。
独りにはなれないから。
自分以外の大切なものを守っていかなきゃならないから。
それを背負っていける自信がないから。


「タナベ」
「はい?」


闇に生きようとする俺は強くない。
独りで生きようとする俺は臆病なんだ。
愛を否定する俺は誰かを愛したいんだ。


「いや……ありがとな」
「……?」



それが俺の、答えだ。







fin...



09.05.24
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