その他

□願わくば、もう一度
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願わくば、もう一度





 リクはズボンのポケットから鍵を出す。ガチャリと差し込み、ドアを開ける。


「ただいまー」


 真っ暗な部屋からは、何も聞こえない。しんとしている。死んだような家だと、幼心に思った。
 ランドセルを置き、靴を脱ぐ。電気をつけても、そこには誰の痕跡もない。彼は冷蔵庫からお茶を取り出して、自分のコップへと注ぐ。部屋では時計がカチカチと鳴っているだけだった。時刻はまだ一時過ぎ。
 お茶を飲み干すと、急に悲しくなる。両親は仕事で、カイはまだ学校だ。学校が終わっても、カイは少年野球の練習に行ってしまう。帰ってくるにはまだまだ時間がある。
 内向的な彼は友人と遊ぶのが苦手だった。兄のようにスポーツが出来るわけではないし、友人が多いわけでもない。だから学校が終わると真っ直ぐに家へと帰るのが常だった。遊ぶといえば、帰り道にいる猫ぐらい。


「……」


 リクはもう一度、時計を見る。長針がわずかに動いているだけだった。誰もまだ帰って来ない。いつも独りだ、とぎゅっと身を屈める。
 昼のテレビは悲しくなる程につまらない。親の職場に電話をしても、邪魔をしてしまうだけだと分かっていた。
 部屋の窓からは、公園で遊ぶ子ども達の声が聞こえてくる。同じぐらいの年齢かもしれない。そういうことを思えば思う程、怖くて怖くてたまらなくなる。
 家族の皆が、ちゃんと帰ってきてくれるだろうか。今日も無事に帰ってこられるだろうか。事故なんて起きやしないだろうか。
 自分は、友人の声を聞いているだけでいいのだろうか。見捨てられたりしないだろうか。もしこのまま、家族と離れ離れになって、たった独りで取り残されてしまったらどうやって生きていくのだろうか。
 無意味な推測が、頭の中を駆け巡る。独りでいる事は、怖過ぎる。寂し過ぎる。時間が経つのがあまりにも遅い。


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