その他

□This Love
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 アメリカの空は、ひどく曇っている。月は出ていない。少し肌寒い風が部屋に入ってくる。明日は雨かもしれない。

 ガチャリと、扉が開く。ゆっくりと足音が近づいてくる。
 窓の外へ向けていた視線を、そちらの方へと向けた。そこにはハジが立っていて、俺と同じように窓の外を見ていた。


「ハジ……小夜は?」


 ハジはゆっくりと視線を落とす。俺と目が合うと、微笑むでもなく、蔑むでもなく、いつもの顔のままだった。


「眠っています」
「そっか……」
「入られますか?」


 驚いて、いいのか、と訊くとハジはひどく優しい顔で笑った。その顔は、ジュリアのそれによく似ていた。















「本当によく寝てるな」


 その顔は綺麗で、だから余計に別人のように見えた。俺の知らない小夜のように。


「私は時々怖くなります」


 じっと小夜を見つめた後、ハジが目を伏せた。初めて見る、ハジの悲しい顔だった。
 コイツが笑うのも悲しむのも、全て小夜が原因なんだと、改めて思い知った。


「もしかしたら、もう二度と小夜が目覚めないのでは、と」


 疲労からか、小夜の顔は青白い。髪の黒さと対になったように、透き通ったような白さだった。
 本当に綺麗だった。吸い込まれそうなその顔は、やっぱり俺の知っている小夜なんかじゃない。沖縄で一緒に暮らしていた頃の、あの小夜はもういない。


「ごめんな、小夜」


 そっと、小夜の頬に触れてみる。死人のように冷たくなっていた。


「リクも、親父も守れなくて」
「そして、お前も」


 小夜は目覚めない。

 リクと親父、そしてあの頃の小夜。俺は大切な全てを無くしてしまった。世界でたったひとりの血の繋がった兄弟と、いつも陽気でどんなことだって「ナンクルナイサ」で片付けてくれた親父。
 バカで、陸上しか特技が無いけれど、ムードメーカーで、友達が多くて、好きな色はピンクで、泣き虫で、ゆでたまごが好きで、おお飯ぐらいで、びっくりするぐらいに柔らかい笑顔をしていた小夜。


「小夜、……好きだよ」


 小夜は普通の人間だ。
 小夜は普通の女の子だ。
 小夜は俺の妹だ。
 今までも、これからも、ずっとそれが小夜だよな。


「次は必ず、俺が守るから」


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