長溺愛症候群A
―長と私と初めての朝―
里のおっかさん。
事件です。大事件です。
お願いです。お赤飯大急ぎで炊いて下さい。そんでもって、甲斐の武田のお城まで大急ぎで届けて下さい。
事件が起きました。っていうか、現在進行形で起きてたりします。
だって、アレですもん。もうどうしましょうね。
朝ぱちりと目を覚ましたら、私、どこにいたと思う?
長の……仕事はできて男前、迅い・強い・家事も料理でもなんでもござれ、真田忍隊の生んだ世紀のヒーロー、我らがスーパーアイドルこと猿飛佐助の腕の中に、一糸纏わぬ姿でいたんです。
そう、一糸纏わぬ姿で。
これを事件と言わずして、何を事件というのだろうか。
『やだ”ってお前、ホントにそう思ってんの?んま、別に俺様はやめてやってもいいが…な。なぁ、どうする?どうして欲しい?ハッキリ言ってみろよ?』
青白い月光を背負って妖しく片方の口の端を吊り上げた長の、劣情を掻き立てる意地悪な言葉とか、我慢できずにおねだりしちゃう私とか、
『お馬鹿さん。ったくー、泣くやつがあるかっつーの。これで終わりじゃねぇんだ。始まり、だろ?』
その行為がひとしきり終わった後、大好きな人と―雲の上の存在だとばかり思っていた人と結ばれた事が嬉しすぎて、感動して涙した私をそっと包み込んでくれた長のぬくもりとか、いろんなものが思い出されてならない。
でも、まだそれが現実だという事が、信じられない。まるで、覚めない夢の中にいるような感覚なのだ。
私…長と……?
その事実を噛みしめたくて、ぴとっと、長の胸板に頬を寄せてみた。
ドクンドクンと規則的に、正しく脈打つ長の鼓動に反して、私の鼓動は、どんどんどんどん不規則に、激しく、速くなっていく。
だって、わ、わわわわ私ったら、長にぴとっ…だなんて、一体……!!!!
ボフッと、音でもしそうなくらいに顔を真っ赤に染める私。
もう私ってば…なにやってんだよ…。離れなきゃ。
そう思った刹那だった。
「ん…?何、だぁ……?」
「ぐぇっ!!!!!!!」
突然、ものすごい力で身体を拘束された。
「…ったーく、なーんかわきの辺りがこそばゆいと思ったら、やっぱお前か。」
長、起床。
………………
………………
……………げ。
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
何話せばいいんだ。こういうときってなんて話せばいいんだ…?
微塵も、考えてなかった。
よし!!!!困ったらとりあえず挨拶!!!これ社会人の基本!!!!!
「あ、おおおおおお長、おは、おはおはおはおはようございますッ!!!」
声が裏返った。どもった。
格好悪い事、この上なかった。
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続きます。