合縁鬼縁-本編-


□拾参話:朋友との再会
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祭りが終わった次の日、再び天候は崩れた。
空は鉛色の雲が立ち込め、小さな雨粒がぱらぱらと降り続けている。

晴れた暁には旅路に戻ろうと思っていたのに、また振り出した雨によって、千早は足止めをくらう事となってしまった。
彼女は叔父である彼に、いつまでも居座って申し訳ないと頭を下げたが、彼は相変わらず穏やかな様子で、気にするなと優しく返した。

むしろ、ずっとこの家に住んでもいいと言われたが、座敷童子が居着くこの家である。
千早はただ、困ったような苦笑いを浮かべるしかなかった。



そうしてまた耕助の世話になる事になった二人だが、祭りの夜の件があって以来会話が減り、何処かぎこちない雰囲気が漂っていた。

千早は、あの時の口付けに何の意味があり、何を思ってしたのがが気になっている。
禅鬼も、彼女がその事についてどう思っているのかが気になるという、互いに変に意識し過ぎて“聞くに聞けない状況”に陥っていた。



二人の間に、そんなよそよそしい空気が流れるのに、恋愛事に鈍い耕助でもさすがに気付いた。
しかし、千早が「特に何もない」と言うと、すんなりと信じ込んだので、それ以上深入りしてくる事はなかったが。



そうして二人の間に、ぎこちない雰囲気を全面に醸し出す日々が数日続いた、そんなある日だった。

雨は止んでいるものの、空は鬱蒼とした灰色に包まれている。
その空の下、千早は町の通りを一人歩いていた。



「…予想以上に早く済んだなー」


道をゆっくり歩きながら、困ったように呟く。
今、彼女は叔父の耕助に頼まれて、切れかけていたお茶の葉を買い足しに来ていた。

しかし買う品がそれ一つだけなので、すんなりと今回の使いの役目を終えてしまった。
まだ日が沈むには時間があるので、このまま帰ってはまた手持ちぶさたになるのは目に見えてる。

それ故、千早はあてもなく、ただぶらぶらと通りを歩いているのであった。



(それに、禅鬼も何か様子がおかしかったし…)


実は、帰宅したくない一番の理由はそこにあった。





耕助の使いに行く前に、千早は禅鬼の所に立ち寄っていた。
彼は朝から部屋に籠もったままで、一度も顔を見せていなかったのだ。

そして千早が部屋の前まで訪れると、中にいる彼に呼び掛ける。



「禅鬼ー?寝てるのか?」

「…何だよ」


苛立った様な、喧嘩腰な声が返ってきた。
彼が起きている事は分かったが、次に襖を開けるのが千早には躊躇われた。

その声色に怯んだというのも多少はあるが、それよりも、どんな態度や表情で彼と接すれば良いのか、分からなかったのだ。

何事も無かったかの様に淡々としていればいいのか、それとも愛想良くした方が良いのか。

悶々と悩んでいた千早だったが、ともかくまずは行動を起こさない事には始まらない。
そう思い、意を決した様に目の前の襖を開け放った。


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