D灰


□記憶
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それは とても小さな、些細なこと




ただ、戦争に少し、否定的になっただけ



それを呟いてみただけ




それだけだ





それが 裏切り者と呼ばれるようになった理由





目の前の紅髪の青年は、遠くを見ながら
そう言った

とても悲しそうな、でも感情を映していない瞳で、僕を見て


「オレは、人が嫌いさ」
と言い
にかっと笑って 彼は立ち上がった



…それは 数年前の話



オレが『ラビ』だった頃の話




記録地は 黒の教団


記録じゃなくて、記憶に残っていることは…ない



みーんな、インクだ




今はもう亡き 黒の教団






「…何で、こんな戦争しなきゃならないんだろうなぁ…」


誰に言うわけでもなくつぶやいたそれを
聞いている奴がいるとは思わなかった


しかもそいつが…ブックマンを毛嫌いしている



ルベリエだったとは、ね


あいつは実際に言ったことを十にして広めた


『ブックマンは歴史の亡者だ!記録の狗だ!!』



と言われたときは流石にキレかけた



伯爵との戦いで気が立っていた皆は
すぐにオレを非難した



何故だ、どうして という疑問
裏切り者、死んでしまえ という中傷


…これには、慣れていた



ブックマンとして、記録地を去るときは、よく言われた



『友人』に どうして、と嘆かれた


『恋人』に 置いていかないで、と喚かれた


『仲間』に 俺達を見捨てるのか、と怒鳴られた



…別に、辛くなんか なかった



また、同じようにここを去ればいいだけの話だった



 




 
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