カカイル2
□なよたけ
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それでいて必要以上に馴れ馴れしい付き合いにはならず、任務の都合で会合の頻度が減っても不思議と疎遠になることもなかった。
ただ、里と2人の教え子たちを取り巻く情勢は加速度的にきな臭くなっていった時期でもあり、イルカと出会ってからいつしか忘れていた夢をカカシは思い出し始める。
時々、年齢に見合わぬ老成した物言いをするイルカが本当は月の人なのでないのかと、不安が募るのだ。
今更かもしれないが、彼との交友を控えるべきかとカカシは考える。
なのに、イルカと会えない日々が長引くと、忘れていた夢は先に進むのだ。
思い出したくない、思い出してはいけない場面に向かって。
今夜はとうとう、カカシは月の人の手をひいて歩き出そうとした。
その先は、まだ思い出してはいない。
それでも、忘れていたままの方が良いのだとわかる。
どうすればいいのか判然とせぬまま、カカシは1人、眠れぬ夜を明かす。
* * * * * すっかり寝不足のまま任務につくのが習慣となってしまったカカシは極力当たり障りなくイルカを避けていたつもりだった。
けれど木ノ葉隠れは忍の里。
これまで交遊のあった2人が疎遠になり始めたと気づき、様々な詮索をする者は多い。
その誤解をなんとかしたくて話しかけなければと思うのだが自分から避けていた手前、なかなか声がかけづらく何も言えないまま噂はエスカレートする。
自業自得の本末転倒を日々繰り返す。
イルカもイルカで、アカデミー教師と受付を兼務して多くの人と接しているせいか忍のくせに喜怒哀楽が明確で、同僚などから苛立ちや不機嫌を指摘されて慌てて取り繕うものの鬱積を溜め込むという悪循環を繰り返していた。
どうにかしたい気持ちが募るほど、カカシは追い込まれていく。
なにしろイルカと話さなくなってから、夢はますます決定的な場面へ進むのだ。
月への道筋で子供に戻ったカカシが月で出逢った人と2人で若竹を伝って行くと、今度は成長していくカカシとは逆にあの人が若返って行く。
長く引きずっていた黒髪は短く軽く、骨ばった手指は柔らかく丸みを帯びて。
やがて歩く事も出来ない幼児となった月の人を現在の姿まで成長したカカシが抱きかかえて若竹の根本に辿り着くまで、多分もう幾夜もない。
2人が大地に降り立った時、果たして何が起きたのか。
それが、分からない。
まだ思い出していないのか、それとも知らないのかすら。
「……どーにか、しなきゃーねえ……」
上忍専用にあてがわれた待機室の片隅で空を見上げるカカシは真昼の白い月を眺め、深い溜息を吐き出す。
あの夢を止めるか終わらせるには、イルカに会うしかない。
漠然とだが、そう確信している。
ただ、もう数歩で若竹の根本へ降り立てる所まで進んでしまった今では、なにもかも手遅れなのではと弱気にもなる。
こんな状態で彼と会話などしたら、何か突拍子もないことを口走りそうで恐ろしい。
しかし、このままイルカを避け続ける事も難しかった。
上忍師として指導する部下を持たずに状況次第で様々な任務をこなすカカシと、アカデミーに加えて任務の割り振りや報告書の受理なども行うイルカとの接点は存外多い。
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