宝物

□鈴様
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楽しそうに荷物を纏めるイルカ先生を見ながら、この幸せがいつまでも続きますようにと
願わずにいられない俺だった。

 


実は あまり移動に時間も取りたくないから
行く先は木の葉隠れから少し離れただけの温泉地だ。

それでも俺達には贅沢な旅行


「先生 宿は何処ですか?こんな町外れに まだ宿は有るの?」

温泉街に入り、此処かと思われる高級旅館前で歩く速度を落としても
先生はスタスタと通り過ぎて行く

「もう少しです。あの林の手前を左に曲がったらすぐです。」

こんな町外れに?
ああそうか。隠れ家的な、二〜三組の泊まり客しか取らないような宿でも有るのかな。

角を曲がり、道の先を見ても宿らしい風雅な建物なぞ見当たらない。
有るのは一件の大きな茅葺き屋根の家だけ。

「お待たせしました。此処ですよカカシさん。」

ニコニコと笑いながら、先生が手で示したのは
まさにその茅葺き屋根の家だった。

「 ? 看板有りませんよ?ホントにここ?」
「そうですよ。普通の民家に見えますが、一度に一組の客しか泊まれないので看板は出してないそうです。」

ひと組。  一組って言った?

「俺と先生しか泊まり客は居ないの?」
「はい。奥の山側の部屋だけです。」
 


奥の山側… ? やけに詳しいじゃない。

「せんせ、来たこと… 」
「あ!おかみさんが出迎えてくれてます!早く!カカシさん!」

まあいいか。あとで問い詰めてやる

「いらっしゃいませ、うみの様。」
「はいっ!二泊よろしくお願いします。」

女将は六十も後半だろうか?特別高そうな着物を着ている訳でもなく
仲居のよう前掛けを付けている。

「そちらの方が御一緒の はたけ様でございますね?」

不思議と懐かしいものでも見るような表情で俺を見る。

「ではこちらへ。」

女将に案内され、先生が言った通りの奥の山側の部屋へ通された。
先生は室内をぐるりと見渡し、何か言いたげな… ともすれば泣きそうな
そんな表情を見せていた。

女将が夕飯の時間や裏に有る露天風呂の説明を一通りして退室すると
俺は早速先生を横から抱き締め聞いてみた。

「ねえ先生。あなたこの宿に来たこと有るんでしょ?」
「… ええ まあ…  !! 」

躊躇いがちな返事に、勝手に嫉妬した俺は、先生を押し倒し喉元にクナイをあてる。
 
「酷い。 何処の誰と来たんですか。どんな思い出が有るのか知らないけれど、そんな所に俺を連れて来るなんて… 」

俺に押し倒され、クナイまで見せられているのに先生は表情も変えず…

でも静かに笑みを浮かべて こう答えた

「父と… 母と。」
「 え? 」
「両親と、です。亡くなる年の春に。」

俺はクナイをそうっと引っ込め「ごめんなさい。」と静かに謝った。

「本当にやきもち焼きだよなぁ、カカシさんは。」

クスクスと笑われても何も言い返せずに、俺は唇を尖らせて顔を赤く染める事しか出来なかった。

イルカ先生が子供の頃に御両親と泊まった宿。
確かに俺も気に入るはずだ。

部屋は二間続きで広く、窓の外には川が流れ山がせまり自然の音しか聞こえない。
こんないい宿が近場に有ったとは、灯台もと暗しだ。

「カカシさん、夕飯は豪華な物は出ませんよ?別にいいですよね?」
「え?そうなの?まあ… 別にいいですけど。」
「ここは前もって泊まり客の食べたいものを出してくれるんです。」
「… まさか先生ラー…」
「頼んでませんっ!」

ケタケタと笑う俺に、今度は先生が唇を尖らせ「天ぷらは出ますよ。」と意地悪を言う

 
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