宝物

□ちゃきっ様
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 その言葉を聞いた途端、子供はどっかりと腰を下ろした。しかも荷物まで下ろして、本格的に休む体勢を取り始める。

「こらこら、其処まで気を抜くんじゃないよ。」
 師の苦笑を聞きながらもぐったりと脚を投げ出す姿は、とてもじゃないが警戒等している様には見えない。男の方はと言うと立ったまま、子供を護る様に周囲に気を配っている。

 しかし

 その時、期を狙っていたらしい…幾つもの影が、蠢き出した。
彼等とて最早『写輪眼』が手負いだとは思っていない。だが、このまま帰る事は許されない…者達。九尾の器か、それとも写輪眼の首か。手に入れぬ限りは彼等に未来は無いのである。

 だから


「火遁豪火球!」
 気殺しながら静かに二人を取り囲んだ輩が、一斉に術を放った。大量の火球が飛び、二人の居た周辺全てが勢い良く燃え上がる。
そうして置いて間を置かずクナイを構えると、敵は飛び出して来るだろう人影を討つ体勢となった。

 すると

 突然、轟音と共に炎の中心が爆発する。何処かに仕込まれていたのだろう火弾が四方八方に飛散して、囲んでいた輩を直撃した。
同時に、湧き起こった激しい煙が襲撃者共の視界を阻む。

「…っ…」
 一瞬動揺した襲撃者達だったが、すぐに落ち着いて気配を探り出した。
 だが本来なら樹々を抜けて行く風に簡単に散らされてしまう筈の白煙が、中々消えない。のみならず、その濃さを保ったまま怖ろしい程の速さで尋常でない広がりを見せ…かなりの範囲をその内へと飲み込んでいく。その異常さに、襲撃者と…周囲で『漁夫の利』を狙って待機していた連中が気付いた時には、既に遅かった。
 撒かれ、風遁によって此の場に留め置かれた毒煙は。然したる抵抗も許す事無く…
その場に居た『敵』の身体の自由を、そして命さえをも奪い取っていったのである。


 時同じくして。
 少し離れた場所に、状況を見守る幾つもの瞳が在った。
樹木に隠れ、冷笑すら浮かべて失態を犯した輩を観察していた者共は、しかし自分達の愚かさには全く思い至ってなかった。
声も無く、周囲に気付かせもせずに一人ずつ葬って行く…影。その優れた動きは、獲物となった輩の数段上であった。次々と、気配を発する事さえ許されず倒されて行く者達。
 眼下で起こっている騒ぎが余りにも大事であるが故に、その際に発せられる音が、匂いが、そして気配が余りにも仰々しいが故に。
…そちらに耳目を奪われた自分達もまた、騒動の一環として組み込まれている事に気付けなかったのである。
 結果。自らは動かずに、皆が疲弊した所を狙って『利』を攫おうとしていた連中は。
己の身の上に起こった事を碌に理解する事も出来ずに闇へと消えて行ったのであった。




 暫し後
「ふ…」
 毒の効果が消えるのを待って煙を四散させた銀の男が、小さく息を付いて結んでいた『印』を終了させる。其処に

「先生〜終わったってば?!」
 森の方から、ぶんぶんと手を振りながら金の子供が忍らしくない足取りで駆けて来た。その顔には、遠目にも判る程の満面の笑みが浮かべられている。

「お〜」
 対して、男の方も片手を上げて応えてやる。
…と、其処に。
突然地面が隆起し、幾つかの塊が飛び出した。それらは素早い動きで子供を取り囲み、動きを拘束する。

「…良くも、やってくれたな…」
 

 
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