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□バースデーがのしかかる
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「はい、イルカ先生」
「え?」
何時の間に移動したのか、メイドのカカシが目の前に立ってキレイに畳まれたベストと、カバン、そして弁当らしき包みを差し出していた。
この展開に完全に呆けてしまったイルカは、座ってくださーい、とメイドのカカシに手を引かれ、再びベッドに腰をおろしてしまった。
「髪の毛、私が結んであげますね」
言うや、メイドのカカシは丁寧にイルカのざんばらな黒髪に櫛を入れ、手早く、そして見事にトレードマークである尻尾を結い上げる。
「どうです?」
鏡を差し出され、そこに映るいつもより生き生きとした尻尾を見ても、もうイルカは反応できなくなっていた。
そのぼうっとしている間に、メイドのカカシはイルカを着替えさせ、きっちりとした中忍の姿に仕立ててしまう。
「さ、いいですよイルカ先生」
「……はあ」
「朝ご飯、召し上がらずにいるのよくないですから、お弁当2つ用意したんで、アカデミーでちゃんと食べてくださいね」
満面の笑顔で、メイドのカカシにカバンと弁当を渡され、半ば朦朧とした状態でイルカは部屋を出た。
「いって、きます……」
「いってらっしゃい、イルカ先生」
律儀に、いつもの習慣なのか、告げて出て行くイルカの背に、弾んだ声が追い討ちをかける。
まだ誰もいないアカデミーの教員室で、イルカは1人机に突っ伏していた。
部屋をでてからずっと、はあとかふうとか、覇気のないため息以外、出やしない。
それもこれも、変な上忍が……、と考えたところでまた、はふうと息を吐いた。
「……やめよ、考えるの……」
とにかくアカデミーでは、アレを思い出すのはやめにしようと決めた。
精神衛生上よろしくないし、うっかりそんな上忍の存在を漏らしてしまって子供に聞かれたら、教育上も大変よろしくない。
「さて、今日の予定はーっと、ん? ああ、そうか……」
予定表とカレンダーを見比べ、イルカは気付く。
今日は5月26日。
イルカの誕生日だ。
「……すっかり忘れてたな……」
ここ最近の忙しさに、というよりも両親が死んでからはイルカ自身ですら気にもしてこなかっただけに、忘れがちになっている。
時たま、この日を知っているわずかな知人に祝いの言葉をかけられてか、書類に記載しなければならない以外に思い出すこともすくない。
それが、よりによってこんな日だとは。
そこまで考えたところで、イルカははたと気付く。
「まさか……」
あのカカシの部下は、悪戯小僧のナルトだ。
普段は大人ぶってあまりはしゃいだことはしないサクラやサスケも、実は嫌いではない。
サクラなどはナルトより頭が切れる分、荷担するとやっかいなところがある。
今日、彼ら7班は1週間前から予定されていた鍛錬日で、任務はない。
「まさか……」
ナルトがサプライズ・パーティー───というか単純に、イルカ先生を誕生日にびっくりさせてやりたいんだってばよーとか言い出して、他の者がそれに同意する可能性はなくはない。
そこに、カカシが巻き込まれるか、悪乗りしてくる可能性も、だ。
今朝のアレは、イルカを早々に部屋から追い出すか、部屋に戻りたくない気分にさせるか、ということなら納得できる。
いや、それにしたってやりすぎだろうとは思うが。
そう考えたい。
なんとしても、そっちの方向で。
「……だとしたら、これはありがたく頂いておいたほうが、いいかな?」
まだ暖かい弁当をみやり、呟いた。
write by kaeruco。
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