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□バースデーがのしかかる
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 全ての仕事を終え、イルカは覚悟を決めて自宅へ戻る。
 灯りのついた窓に誰かが待っているだろう部屋を思い、なんとなく嬉しくなるのは一人暮らしの長さ故だろう。
 その灯りに勇気付けられ、何が待ち構えていても大丈夫だと、気持ちを新たにする。
 ところが、予想していた気配は全く感じられない。
 まだ未熟な下忍たちは、どうやらいないらしい。
 首をかしげながら戸を開けたイルカを出迎えたのは、朝と変わらずメイド姿のカカシであった。

「おかえりなさい、イルカ先生」

 できれば一生思い出したくなく、2度と見たくはなかったその姿に、心の奥底でイルカは絶叫していた。

───……忘れてたーーーっ!

 あの暖かな灯りには、こんなものが待っていたのだ。
 蒼白になって固まるイルカをよそに、メイド姿のカカシは朝と同じく甲斐甲斐しく働く。
 手に下げていたお弁当袋を受け取って、肩に引っ掛けていたカバンを下ろし、ベストも剥ぎ取っていった。
 
「お仕事お疲れさまでした〜。あ、お弁当ちゃんと食べてくれたんでーすね。嬉しいデスー」

 いつの間に、とイルカがベストを剥がれたことに気付いて慌てだす前に、洗面所へ放り込まれる。
 
「お風呂、沸かしてありますから入っちゃってくださーい。着替えも用意してありますから」

「はあ……」

 カカシヘの返事とも、ため息ともつかないものが、イルカの口から漏れた。
 確かに風呂は沸いているし、着替えなのか新しい浴衣と下着が用意されている。
 そればかりか、洗面所も脱衣所も風呂場も隅々までキレイに掃除されていた。

 本当に1日中、カカシはここでイルカが忙しさにかまけて放り出していた家事をことごとく片付けてくれていたらしい。
 その光景とカカシの思惑を思うと、身動きのできなくなるイルカだが、いつまでもこうしているのもマズイだろう。

「……入るか……」

 ぼつりと吐き出し、のろのろと服を脱いで風呂へ入った。
 湯には白濁の入浴剤が入れられている。
 好みの湯加減に多少は気分が浮上する。
 あの格好でさえなければ、カカシのしてくれたことはとても嬉しかった。

 何故、カカシがイルカの好みの湯加減を知っていたのかという疑問は、考えない。
 考えたくない。
 恐すぎる。
 ゆっくりと時間を掛けて風呂を堪能したイルカは、しっかりと髪の水分をふき取ってから脱衣所を出る。
 
「イルカ先生ー。ちょうどご飯できましたよ〜」

 台所で立ち働くメイド姿のカカシに促されるまま、食卓についた。
 あまり広くないテーブルには小ぶりのケーキを中心に、和テイストの料理が並んでいる。
 焼き魚やら季節の野菜の炊いた物、木の芽田楽。
 実に食欲をそそる。

「まずはビールですか? それともお酒にします?」

「えー、ビールで……」

「はーい」

 イルカが答えるのと殆ど同時に、メイド姿のカカシが冷えたグラスと中ビンを持って現れる。

「どーぞ、イルカせんせ」

 見事な泡立ちバランスで注がれたビールを勧められ、箸を持たされ、イルカは困った。
 カカシの給仕で1人だけ食事をするはどうも居心地が悪い。

「カカシさんは、召し上がらないんですか?」

「いいんですか? じゃあ、私もご相伴させていただきますねー」

 すぐにカカシは自分のグラスや箸を用意した。
 互いに冷えたビールを満たしたグラスを掲げあう。

「お誕生日おめでとうございます、イルカせんせー」

「ありがとうございます、カカシさん」

 風呂上りの1杯を一気に流し込み、かーっとイルカは息を吐いた。
 
 
write by kaeruco。
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