カカイル
□夜の虹
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夜の虹
〜 Night Rainbow 〜 任務を終えて里へ戻ったのは、日付も変わった頃。
暗部装束の上から頭巾つきの外套をまとったカカシは人目につかぬよう、ぐるりと回って里の外れを駆けていく。
夕方からざぶりと振った雨が濡らした道に雲間から顔を出した月の光が反射して、やけに明るい。
水を含んで重い外套を忌々しそうに弾き、カカシは面を付けたままの顔を上へ向けた。
薄明るい夜空を黒い雲が風に巻かれ、早足で流れている。
「……そっか……」
見たままを呟いた言葉は、自分でも思わぬ感慨を含んで落ちていく。
───満月、ね……
木ノ葉隠れの里で忌まわしい事が起こったのは大抵、こんな月の夜だった。
そのせいだろう、普段ならば繁華街からの喧騒が聞こえてきてもいい時間だが、里は静まり返っている。
きっと誰もが息を潜め、夜が無事に明ければいいと願っているのだ。
どうせ誰も見咎めはしないと踏んで、カカシは足を止めると外套の頭巾を背へ落とし、面を外した。
「どーしてんのかなー」
声には出さず、あいつら、と呟く。
脳裏には、こんな夜に全てを失った2人の部下が思い浮かんでいた。
いつもは強がった振る舞いをみせる彼らは、どうしているのか。
月の相に気付かずに、何もかも忘れて眠っていればいい。
1人この月を見上げ、膝など抱えていなければいい。
そして、あの人も。
と思う端で、鋭敏な感覚は自分以外の存在を見つけていた。
「あ」
慌てて面をつけようとするが、少し遅い。
向こうも同じタイミングで自分を見つけていた。
けれど、まさか面を外した暗部とは思いもしなかったはずだ。
互いに、間抜けた顔を見合わせることしばし……。
「あー、ども。イルカせんせー。こんばんは」
決まり悪げに頭を掻きつつ挨拶をすれば、戸惑いながらも常と変わらぬ労う笑顔が返る。
「こんばんは、カカシさん。無事のご帰還で」
「はは。とんだ姿をお見せしまして……」
「いえ……」
急に出会ったこと以外は驚いた様子もないイルカに、カカシは首を傾げそうになる。
自分がまだ暗部を抜けきれていないことを、彼に知られていたとは考えにくい。
それに何故、こんな夜に1人、こんな里の外れに居るのか。
多分、今夜のような月を最も厭う人であるはずなのに。
「イルカ先生も、お仕事?」
そんなワケはないだろうと思いながらも、聞いてみた。
アカデミー教員のイルカがこんな時間まで残業をするはずがないし、任務に着くこともない。
例えそうだったとしても、彼は里の中にあってさえ軽装過ぎる。
ベストと額当てはともかくとして、ポーチやホルスターの類いはない。
第一、彼の自宅はこの辺りではなかった。
やけに自分がイルカについて詳しく知っていることは棚上げし、カカシは重ねて訊ねる。
「あ、もしかしてデートとか?」
「残念ながら、そういう方はいないので……」
苦笑交じりの答えに、何故だか安堵してカカシは続く言葉を聞いた。
「今夜は雨上がりの満月なので、虹を探してるんです」
「虹、ですか?」
「ええ」
理論的には、夜でも虹は出るかもしれない。
けれど、それを思いつき、実際に探しに出る者などいるだろうか。
write by kaeruco。
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