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□この夏の予定
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この夏の予定
 
大人の夏休み 1



 浜沿いの防風林をボンネットバスがゆっくりと進んでいく。

 でこぼこ道にがたつきながら、停留所で止まる。
 まるでゼンマイが切れたような止まり方だ。
 しばらくすると1度大きく身を震わせ、また走り出す。

 バスの巻き上げた土煙が落ち着くと、下り立った2人の客の姿が現れた。

「やーっと、着きましたね〜」

 やれやれと背筋を伸ばすカカシ。
 その傍らでイルカは複雑な表情で彼をみやる。

 例年に違わず任務続きの毎日。
 その狭間に重なった4日の休み。

 常ならばまとめて片付ける家事に追われながら、万が一の呼び出しを待つだけの日々。

 なのに今、こうして2人で里から離れた人気のない海岸にいる。

 それもこれも全ては、カカシが突拍子もなく言い出したことが原因だった。

───海行きマショ

 その一言に、うなずきかけたイルカは、とっさに思いとどまった。
 
 休暇とはいえ、2人とも自由に里を出て行ける身ではない。
 それに任務続きで片付いていない家事や、たまっているだろう疲労を考えれば、出かけるのは控えたい。

 そんな言い訳を口にする前に、カカシがぽつりと告げる。

「オレねー、夏休み初めてなんですよー」

 えへへ、と恥ずかしそうに微笑む男。
 正直、イルカは呆れた。

 もうすぐ三十路だっていうのに、夏休みが初めて。

「だったら、思いっきり楽しまないといけませんねえ」

 気付いたら、そう言って、この小旅行を了承していた。
 その日のうちに届けをだした。
 なにやら気の進まない里長にごねらたりもしたが、ちゃんと了承も貰ってから2人で里を出た。

 忍服は途中で荷物にしまい、わざわざ調達した普通の服を着てバスに乗った。
 ごく普通の旅行者のように。

 白いシャツをラフに羽織ったカカシは、薄い色のサングラスをかけている。
 藍色のTシャツを着たイルカは、いつもより低い位置で緩く髪を結っている。

 2人の間を、強い海風が吹き抜けていった。

「カカシさん」

「なんです、イルカせんせい」
 
「オレも夏休み中ってことで、先生はやめてください」

「え?」

「旅行中は『先生』もお休みです」

 だから、先生って呼ばんでください。

「え、でも、イルカせ」

 言いかけたカカシの口元に、イルカの指が押し当てられる。

「折角の夏休みなんですから」

 楽しみましょう。

 微笑を浮かべたイルカの表情は、いたずらっ子のようだった。

 カカシにとっては、小悪魔かもしれないが。

 
【続く】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2005/07/14
UP DATE:2005/07/30(PC)
   2009/07/11(mobile)
 
 
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