カカイル2
□ひとり
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ひとり
4「ご苦労だったね、カカシ」
「……いえ」
数日後、カカシは無事に任務を終えて火影の元へ報告にきていた。
心なしか綱手の表情が楽しそうであり、一方のカカシはやや不機嫌だった。
任務に失敗したワケでも、困難だったワケでもない。
それは報告書を見なくとも、特に汚れもしていないカカシの格好を見れば分かる。
「こんな依頼でオレを指名するなんて、2度と受けないでくださいよ」
「そう言うな。あれでも上得意で、金払いもいい。他にくれてやるには惜しい客なんだよ」
それに。
「お陰で大事な人のピンチに駆けつけられたんだろ?」
「ぐっ」
執務机の上で組んだ両手で口元を隠し、綱手はくふふと含み笑う。
カカシが任務に出た直後、帰還途中の部隊が追撃にあって苦戦していると急報が入った。
医療忍術の心得があるシズネとサクラ、特別上忍のゲンマとライドウが救援隊として現場に向かったのだ。
だが、急行した彼らが見たものは、いちゃつく部隊長と通りがかりの上忍だったという。
「いやあ、アタシも見たかったよ。いや、まさかアンタがあのイルカとねえー」
からかいにかかる綱手へ、カカシはそっぽを向いて開き直ったような物言いをする。
「悪いですか? すみませんね、オレたちばっかり幸せでー」
「……色気づきやがって、クソガキどもがっ」
独り身の綱手へのあてつけでしかない言葉に、5代目火影は穏やかに毒づいて握った手に力を込める。
途端に丈夫なはずの執務机がびしりと悲鳴をあげた。
綱手の怒りの度合いを察してか、カカシは一番聞きたかった話題を振る。
「で? どうなんです?」
「ああ?」
「イルカ先生ですよ」
「ああ、心配ない。さっき包帯もとれたし、検査の結果も問題ない。もう、自宅に戻ってる頃だろ」
「そうですか」
ほっと、カカシも安堵の息をつく。
「あと、約束どおり、アンタたちには今日、明日と休暇をやるよ」
イルカにも伝えとくれ。
「しっかり休んで、またバリバリ働いとくれってね」
「はいはい」
心の中で、人使いの荒さを直して欲しいよなあと思いつつ、カカシは丁寧に頭をさげると踵を返した。
すぐにでも飛び出していきたい気持ちを押さえ、ことさらのんびりと歩いて扉へ向かう途中、声が掛かる。
「なあ、カカシ」
足を止め、不敬だが首だけを巡らして綱手の顔を窺う。
「お前……」
「綱手様」
何を聞かれようとしているのか察して、言われる前に遮った。
ゆっくりと向き直り、まっすぐに前を見て偽らざる本心を告げる。
「あの人は、オレにとっても大事な人なんですよ」
それだけを言うと、カカシは逃げるように姿を消した。
後には、あっけに取られたままの綱手が1人残されたが、しばらくして大きな笑い声が聞こえてきたという。
【了】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
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WRITE:2006/05/26
UP DATE:2006/05/31(PC)
2009/11/15(mobile)