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□クリスマスまで待って
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クリスマスまで待って
【2‐3】 夕闇迫る大学のカフェ・テラスの一角で、深刻な表情の一団が額を突き合わせていた。
2つのテーブルを占拠した十人余りは大学部の学生だけでなく、高等部や中等部の制服を着ている者も混じっている。
彼らは今朝からの緊急事態に対処するべく召集された『海野イルカ保護者会』のメンバーであり、現在は『畠カカシ対策会議』の真っ最中だ。
一応、周囲が勝手にそう呼んでいるだけで、彼ら自身でそんな名乗りはしていない。
だが、やっていることが確かに呼称通りな自覚があるので、誰も否定できないでいるのだ。
議長よろしくテーブルの中央に陣取った猿飛明日磨がたった今着信したメールに目を通し、唸る。
多分、この会議に関わることだろうと確信している保護者会の面々は明日磨が口を開くのを待った。
「なにかあったの?」
そこへ夕日紅が割って入り、明日磨へ問い掛ける。
明日磨は簡単に今朝からの経緯と、イルカを疾風がガードし、カカシを帯人に尾行させていたことを話した。
「じゃあ、」
「……が、帯人の野郎、カカシを見失いやがった」
「あら」
紅の相槌をスルーして明日磨は立ち上がる。
「オレは疾風とイルカを送ってく」
中等部の者は遅くなるので帰宅するよう告げ、高等部のメンバーには手分けして帯人とカカシを探すよう指示する。
大学部の者は独自のやり方があるので、頼むとだけ。
「悪ぃな、紅。後で埋め合わせするわ」
最後に待ち合わせていた相手にそれだけを告げて、明日磨は大股でカフェを出ていく。
「いってらっしゃい」
置き去りにされた紅はキャンセルされた約束を埋めるため、メールを送る。
待つこともなく返ったメールは短い了承の言葉と、彼女らしい揶揄。
『そんな男、別れちゃえ』
そんな事を言ったところで、やっぱりあんな大勢に大事にされてる弟分でも人任せにしないのが明日磨の良いところなのだ。
返信には行き先の店の名前だけを打つ。
「イルカちゃん相手に妬いたって、仕方ないでしょ」
そう笑う紅だって、あの子が可愛いのだから。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2009/12/14
UP DATE:2009/12/17(mobile)